#415 ドクター刑事登場!
「えー? 神田正輝が救世主ぅ?」って、皆さん訝しく思われるかも知れません。私も当時、殿下の後釜に神田さんが決まったと聞いて、正直ビミョーやなぁって思いました。
『ゆうひが丘の総理大臣』や『俺たちは天使だ!』で既に馴染みのある役者さんでしたが、その時点では「ルックスだけが取り柄で面白味がない」ってなイメージしか抱いてなかったんです。
ところが、そんな神田さんが不思議な事に『太陽にほえろ!』の中では、ひときわ輝いたんですよね! ちょうど役者として一皮剥ける時期だったのかも知れないけど、それだけじゃ説明がつかない、奇跡的な化学反応が起こったんです。
バラエティー番組でお見かけする神田さんはあまりにマイペースで、KYなダジャレを連発する等して視聴者の神経を逆撫でするような、ちょっと迷惑な存在だったりしますよね?
でも、そんな神田さんの個性こそが、当時の七曲署=重苦しいクソマジメ集団には、最も必要なものだったんだと私は思います。調和を乱し、従来とは違った価値観を持ち込む「迷惑な人」こそが必要だった。
神田さんは、所属事務所の社長(つまり石原裕次郎さん)から「おまえ『太陽』に行くんだったら、メチャクチャにしてやめさせちゃえ」ってそそのかされたんだそうですw
それは無論ジョークでありつつも、ある意味ぶっ壊さないと『太陽』はダメになるって、裕次郎さんにも分かっておられたんじゃないでしょうか。
医大中退の遊び人で、たまたま警察官募集のポスターを見て刑事を志し、射撃の趣味を活かせると思い、拳銃使用率が高い七曲署入りを希望したというテキトーさ。
当時は6連発のリボルバー拳銃を使うのが常識だった中で、自分だけは15連発のオートマチック拳銃を使用。『太陽』の刑事はよく走るのが特徴だから、自分は走らずに要領よく車を使う。服装も前任者の殿下とは対照的にラフな感じで。
そうして『太陽』的なアプローチをことごとくひっくり返す手法は後の『踊る大捜査線』を彷彿させるし、根本には熱い刑事魂を秘めながら、表面的には遊びで捜査してるように見える軽い佇まいは『あぶない刑事』をも先取りしてました。
そもそも『太陽』って、反体制的な長髪刑事=マカロニっていう、極めて常識外れなキャラクターから始まったワケですから、その原点に立ち戻ったとも言えます。枠からはみ出してこその『太陽にほえろ!』なんですからホントに。
それは神田さん1人の功績では勿論なくて、番組自体もその方向にシフトすべく動いてたのでしょう。この時期の主なサブタイトルを列挙すれば一目瞭然です。
『ゴリさんが殺人犯?』『ボスの誕生日』『ドックとスニーカー』『令子、俺を思い出せ!』『拳銃を追え!』『ドック対ドッグ』『スリ学入門』…
『命』とか『死』とか言ってた時期とは、えらい違いでしょう?w まぁ人によって好みは違うでしょうけど、私なら断然、こういうサブタイトルの方が興味をそそられます。
そんなワケで、スコッチの復帰だけではまだ重苦しさを拭い切れなかった『太陽』も、ドック加入のお陰で空気が一変、本来のアクティブな番組にようやく戻ってくれたのでした。と同時に視聴率も回復。だから神田さんは救世主なんです。
ちなみに神田さん扮する西条刑事のニックネームは、ドクターを略した「ドック」であり、犬の「ドッグ」ではありません。当時観てなかった人は、皆さん「ドッグ」だと思い込んでるみたいで… そして『太陽』は石原プロの作品ではありませんw
#420 あなたは早瀬婦警を妻としますか
ロッキーが令子と結婚し、2人の新婚生活→妊娠→出産→双子誕生と、長さんの家庭とはまた違ったタイプの、初々しいホームドラマが描かれて行きます。
子供が産まれた時点で、ロッキーはもう殉職しないでベテラン刑事になって行くんだなって、私は思い込んでました。いくら『太陽』でも、妻子を残して死なせるような事はしないだろうって。いやー、甘かったですねw
☆1981年
#449 ドック刑事雪山に舞う
神田さんはスキー指導で飯を食って行けるほどの腕前を持つスキーヤーで、それを活かすべくスキー場を舞台にした話が創られました。
他にも水上スキーやテニス等、スポーツ万能ぶりを『太陽』で見せつけてくれた嫌味な…いやいや、素敵なオッサンですw
#452 山さんがボスを撃つ!?
思いつきそうで、なかなか思いつかないアイデア。殿下がシャブ中にされた話と同じパターンで、一般女性から送られたプロットが採用された作品です。
完全無欠な刑事に見える山さんにも弱点がある。それは、亡くなった奥さんの忘れ形見とも言える、養子の隆。ボスに恨みを持つ犯人がその隆を誘拐し、山さんにボスの射殺を命じるというストーリー。
これは評判になったらしく、後に他の刑事ドラマでも似たような話が創られる事になります。けれども、これはボスと山さんという、長年に渡って熱い信頼関係が描かれて来た2人だからこそ面白いし、見応えがある話なんですよね。1クールの番組でやってもドラマチックにならないですよ。
ボスは死を覚悟して、山さんに「さぁ、撃ってくれ」って言う。山さんは涙目になりながら撃つんだけど、急所を外しちゃう。ボスは血を流しながら「山さん、時間が無いんだ。今度は外さんでくれ」って…
「殺されるよりも殺す方がツラい。山さん、ツラい思いをさせて悪かったな」
で、やはり10年選手である長さんによる必死の説得で、すんでのところで犯人が「もういい!」って言って諦める。するとボスったら、何事も無かったかのように、地面に落とした上着をサッと拾って歩き去るんですよ! カッコ良すぎる!w
さらに駐車場で車に乗る時、ボスが「山さん、進退伺いなんて妙な事は言わんでくれよ」って声を掛けたら、終始ずっと無言だった山さんが一言「ボス」とだけ言ってニヤッと笑う。
で、同じ車じゃなくて、それぞれ別の車に乗って去って行くのがまたカッコイイ!w お互い、何も言わずとも解り合える、この信頼感。『太陽』が長寿番組であればこそ、何の説明もなく表現出来るんですよね。
#459 サギ師入門
先に『スリ学入門』ってエピソードで、ドックがスリ犯を捕まえる為にスリのテクニックをプロから学ぶ過程が描かれ、好評につき第2弾という事なのですが…
この回から約半年、ボスが欠場となります。裕次郎さんが大動脈瘤破裂で倒れ、生還の確率はかなり低いっていうニュースが全国に駆け巡った時、私は不謹慎ながら裕次郎さんの生命よりも「『太陽』はどうなっちゃうの!?」っていう不安で頭が一杯になりました。
そしたら、裕次郎さんの復帰を信じてボス不在のまま、番組は続行される事になりました。『西部警察』も同じ形で継続されましたが、あっちは渡哲也さんの番組ですからね。裕次郎さん抜きの『太陽』なんてあり得るの?って、驚きました。
その間、山さんがチームの指揮を執る事になりましたが、必ずボスのストップモーションで締めくくるラストシーンが無いのは寂しかったですね。ちょっと新鮮でもありましたがw
#462 あなたにその声が聞こえるか
聴覚が不自由な方にも楽しんでもらえるようにと、画面の隅に手話通訳の小画面が入るという、当時としては画期的な試みが実行されました。
そして、水沢アキさん扮する聴覚障害者の女性が、ゴリさんと恋に落ちます。とてもめでたい事だけど、とても嫌な予感がしますねぇw
#475 さらば!スニーカー
スニーカーの妹が乱射事件に巻き込まれて亡くなり、その犯人を逮捕したスニーカーは、彼女の夢だった海の牧場設立を実現させるべく、辞職して故郷の沖縄へと帰って行きます。
ちょうど番組がマンネリに陥ってた時期に登場し、ボス不在の時期に降板する事になったスニーカーは、殉職という花道も与えてもらえず、『太陽』史上で最も不遇な新人刑事だったかも知れません。
でも私は、ボンの遺志を継いだ刑事であるスニーカーを、ずっと応援してました。1年目こそ辛気くさいエピソードばっかりで魅力を発揮出来なかったけど、2年目はアクティブな活躍やコミカルな一面も見られて、その使命はしっかり果たしてくれたと思います。
山下真司さんは『太陽』卒業後しばらく経ってから、大映ドラマの『スクール・ウォーズ』主演で本格的にブレイクされます。近年は『ケータイ刑事』シリーズで『太陽』と同じ「五代潤」を演じられて、私は何だかホッとしました。
さて、次回はいよいよ1982年、『太陽にほえろ!』激動の10周年イヤーへと突入して行きます。