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『瞳の奥の秘密』

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駄目な映画やドラマを観て、悪口を書くのもなかなか楽しいもんですが、そればっかりだと自分の感性まで腐っていっちゃうかも知れません。たまには本当に良い作品も観なければ!

なので、先日yamarineさんがブログで薦めて下さった『瞳の奥の秘密』を観てみました(http://yamarine48.blog44.fo2.com/blog-entry-1189.html)。なんとアルゼンチンの映画ですが、アカデミー賞の外国語映画賞を獲った作品です。

いやー、これは確かに良かったです! 是非、皆さんにも観て頂きたいので、ネタバレは最小限に抑えてご紹介したいと思います。

主人公・ベンハミンはブエノスアイレスの連邦刑事裁判所を定年退職したばかりのオジサンですが、役職が何だったのか不明でした。たぶん検事補か判事補だと思うのですが、事件の捜査や取り調べが独自に出来ちゃうんですね。

で、ベンハミンには大きな心残りが2つあるんです。その1つは、25年前に形の上では解決した強姦殺人事件。彼はそれを小説に書こうとして、顛末を回想します。

犯された上に殺されたのは、新婚の美しい新妻で、捜査の結果、幼なじみの地味な青年が容疑者として浮かびます。前半はその捜査の過程が淡々と描かれますから、ちょっと睡魔に襲われるかも知れませんw

ところが中盤、その容疑者を追い詰めるサッカー競技場での描写が凄い! 競技場の遠景から、カメラはプレー中の選手達の頭上を通り抜け、観客席にいる主人公のアップへと寄って行くんだけど、それを編集無しのワンカットで見せちゃう。

無論CGを駆使してるんだろうとは思いますが、普通に観てる分には仕掛けが判りません。それまでが淡々としてるだけに、いきなりトリッキーな映像が入ってアクティブな展開になり、一気に目が覚めますw

ドラマもそこから一気に盛り上がり、思わず身を乗り出したまま最後まで目が離せなくなります。トリッキーな撮影は、その合図みたいなもんですね。

その次に入る、容疑者の取り調べシーンがまた凄い! ベンハミンにはイレーネという美しい女性の上司がいるんだけど、容疑者が本当に強姦殺人を犯したのか否か、その時点では不透明なんです。

でもイレーネは、自分の胸元を見る容疑者の陰湿な眼つきを見て、こいつはクロだと見抜いちゃうw で、逆に「この男は絶対にシロよ。こんな地味でチンチクリンな乳首男を、あんな美人が相手にするワケ無いし、そんなピーナッツみたいなポコチンで(笑)強姦なんか出来るワケないもの」って、挑発するんですよね。ピーナッツってアンタ…w

この手の変態チョメチョメ野郎はプライドだけいっちょまえですから、いきなりポコチンを放り出して「見ろ! 俺のこの立派なポコチンを見ろ! あの女をどうやって犯したか教えてやる!」だってw

そんなワケで、そいつは確実にクロなんだけど、なんとベンハミンと犬猿の仲である判事のボスが、嫌がらせで勝手に司法取引して、そいつを釈放してしまう!

一転してベンハミンは、野に放たれた変態ピーナッツ野郎の復讐のターゲットにされてしまい、町を離れる羽目になっちゃう。事件は、そんな後味の悪い結末で終わった、かのように思われたのですが…

殺された新妻には、とても誠実な夫がいました。まだ新婚だったせいもあるでしょう、彼には妻への純粋な愛だけが残り、犯人への憎しみをどうしても忘れる事が出来ない。

しかし、賢明な彼には分かってました。犯人を殺したところで、そいつを罪悪感から解放してやるだけに過ぎず、代わりに自分が罪を背負っていかなくちゃならないって事を。

25年間、ベンハミンがずっと心に引っ掛かってたのは、そんな夫の存在なんです。あんなに妻を愛し、想いを引きずってた男が、犯人を釈放されたまま黙っていられるのか?

山奥で一人、ひっそり暮らす夫を訪ねたベンハミンは、そこで驚愕の真実を目のあたりにします。うわっ、この手があったか!?と、私は眼からウロコが落ちました。

『さまよう刃』みたいに中途半端な偽善でお茶を濁すような事じゃなく、『グラン・トリノ』みたいな自己犠牲でもない。勿論、ブロンソンやメルギブ流にスカッとぶっ殺すのとも違う、こんな究極に残酷な復讐方法があったとは! これはもう、必見です!

ここまでネタばらししちゃうのは、事前にストーリー展開を知ったところで、この映画の素晴らしさは少しも損われないだろうと判断したからです。

私は冒頭で、主人公・ベンハミンには2つの心残りがあると書きました。そう、実はこの映画の肝は、彼のもう一つの心残りにあるんです。

それは、彼が直属の上司であるイレーネに寄せる、密かな恋心。そして又、イレーネの瞳の奥にも、決して言葉には出せない想いが…

身分が違う、学歴も違う、そしてイレーネには婚約者もいる。お互いの想いを感じながら、そして惹かれ合いながらも、とうとう口には出せずに25年… 彼が書こうとしてる小説は、彼女へのラブレターみたいなもんです。なんという奥ゆかしさ!

私は恋愛映画を好みませんが、この二人の関係にはシビレました。嗚呼、こんな恋がしたい!って、柄にもなく思っちゃいましたよw

事件を再考するにあたって、二人は25年振りに再会します。どちらも結婚してるんだけど、ベンハミンは妻を愛せずに離婚してます。さてさて、瞳の奥の秘密は明かされるのか?

台詞では一切、語られません。それぞれの視線、瞳が全てを物語ってる。それが、犯人が被害者を見つめる視線、夫が妻を見つめる視線にもかかってる。見事な脚本と演出です。

俳優さんもみんな素晴らしかったです。本国じゃ高倉健さんみたいな存在らしいベンハミン役の人は勿論、知的さと強さと繊細さを同時に表現するイレーネ役の女優さん、そして殺された新妻のタメ息が出ちゃいそうな美しさ!

それと、本文には出ませんでしたが、ベンハミンの相棒・パブロも良かったです。アル中で肝心な時に限ってドジを踏むこの人の存在が、暗くなりがちな事件捜査において、絶妙な緩和剤になってくれました。最後にはちゃっかり泣かせてくれますし…

いやぁホント、良かったですよ。アルゼンチンの映画なんてきっかけが無ければまず観ませんから、yamarineさんに大感謝ですm(__)m

私はハリソン・フォード主演の『刑事ジョン・ブック/目撃者』を思い出しながら観てました。ハリソン主演だしこの邦題ですから誤解されがちですが、名匠ピーター・ウィアー監督による第一級のサスペンスであると同時に、とても繊細で切ないラブストーリーでもあります。

皆さん、騙されたと思って『瞳の奥の秘密』と『目撃者』、合わせてこの機会に、是非!

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