その日、お伊勢さんは嵐でした。後から知った事ですが、同じ三重県でも他の地域は平穏な天気で、伊勢だけが集中豪雨だったそうです。
ワイフとは実に5年ぶりの再会だったワケですが、どれだけブランクが空いても距離感が変わらず、照れる事もなく自然に接する事が出来る相手なんですよね。
宇治山田の駅で再会すると、ワイフは手際良くレンタカーを手配して私を助手席に乗せw、伊勢神宮まで連れてってくれました。
激しい雨の中、ワイフと私は傘を差して海辺を歩き、夫婦岩を眺めたり、私の肩・腕の痛みが治るようお詣りしたりしました。そんな雨の中でも参詣に来られてる方は、結構な人数おられましたね。
それだけでもシュールな光景だったけど、境内で結婚式を挙げてるカップルと親族の方々もおられて、それはもはや神々しい光景として、感動的に私たちの眼には映りました。
ワイフが言うには、雨嵐は天からの祝福なんだそうです。みんなで拍手をして歓声を上げてるようなもんなのでしょうか。確かに境内の若き新婚カップルは、ことのほか幸せそうでした。
お詣りの後、私たちは鳥羽の水族館へと移動し、のんびりとオットセイのショウなどを観て回りました。それはもう楽しい時間でした。「この人と一緒にいるとリラックス出来るし楽しいよなぁ」って、お互い再確認するひと時だったように思います。
そして喫茶店に入り、どんな会話をしたのかなぁ… 会ってなかった5年間の近況でも語り合ったのか、共通の趣味である映画談議で盛り上がったのか…
そこでワイフがあらためて言った「私と付き合ってくれない?」っていう言葉のインパクトで、それまでの会話はすっかり忘れちゃいました。
5年前のワイフは「試しに私たち付き合ってみない?」みたいな言い方だったと思うんだけど、今回はよりストレートに、彼女が言うところの「素直な気持ちで」想いをぶつけてくれました。
だからなのか、それとも5年の歳月が過去の傷を癒やしてくれたのか、私はあの時みたいな不安を感じる事なく「うん。じゃあ、よろしく頼みます」みたいな返事をする事が出来ました。
ワイフは、私とは対照的に行動力の人です。そして、自分が本能で感じた事を信じ、理性のタガを外せる人でもあるんです。彼女は勢いに任せて、更にこんな事を言いました。
「じゃあさ、もう一つ言ってもいい? あのさ、結婚してくれない?」
これには意表を突かれました。たいへん驚きました。それはいくら何でも、あり得ないだろうと。常識で考えれば、結婚相手として私ほど相応しくない男はいないですから。そしてワイフは、私がそういう男である事を誰よりもよく知ってる人なんです。
だから、私の口からまず出たのは「えっ、なんで? なんで俺なの?」ってな言葉でした。私と結婚すれば苦労こそすれメリットは何も無いし、彼女から愛されるに値するような事を、私は何もして来なかった筈です。
ワイフは、今年になって心境が大きく変化し、一生のパートナーを得たい気持ちが急激に強くなった時、パッと浮かんだのがハリソン・フォードそっくりな、私の顔だったらしいのです。
そんな時、いつも「いや違う、これは違う」って自ら否定して来たんだけど、今回は自分の直感を素直に信じる事にした、というような説明を彼女はしてくれました。
そう言われれば私も、最初に出逢った時から壁を感じること無く、自然に接する事が出来た女性はワイフだけでした。それはあらかじめ、出逢う事が決まっていた運命の相手だから、なのかも知れません。
苦労はしても、彼女となら、一緒に楽しく暮らして行けそうな気がしました。彼女との間には、私の苦手なピリピリした空気が生まれる事は無いような気がしました。
だけど、やっぱり怖い。今は私の良い部分だけ見えてるかも知れないけども、一緒に住んで私という人間を深く知れば知るほど、幻滅してイライラしちゃうんじゃないか?
つまり北神戸での日々をまた再現しちゃう事が、私にとっては最大の恐怖なんですね。だからもう、私は一生結婚はしないと決めてたんです。
そんな私の背中を押してくれたのは、ワイフのこんな言葉でした。
「あなたはそのままでいいから。ありのままのあなたで、ずっとそばにいてくれればいいから」
北神戸の1年間、同居したAさんがひたすら私を改造しようとした事は以前に書いた通りです。つまり「そのまま」の私は完全否定されたワケです。だから私も必死に変わろうとしたけど、結果的にはズタボロになっただけでした。
そんな私を全面的に、ありのまま受け入れてくれようとする女性が、いま目の前にいる。
現実的には確かに、今のままの私では家庭を支える事は出来ないでしょう。あらゆる面でもっとしっかりしないとワイフを守って行けない事を、同居生活スタートを目前にした今、つくづくと思い知らされてます。
彼女と楽しく暮らして行く為になら、努力出来ると思いました。自分を根本から変える事は不可能だけど、2人の生活を守って行く為になら、しんどい事でも頑張れると思いました。
「じゃあ、結婚しようか」
プロポーズを受けて5分と経たない内に、私はそう返事してました。
窓から外を見ると、さらに激しい雨嵐が吹き荒れてましたw
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ワイフと私のヒストリーPart.17
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