☆1986年『太陽にほえろ! PART 2 』
つい最近レビューしたばかりですが、急きょ終了を余儀なくされた『太陽にほえろ!』から新番組『ジャングル』スタート迄の繋ぎとして、1クール(12話)限定で放映された番組です。
裕次郎ボスの復帰から数年後という設定で、栄転して七曲署を去ったボスに代わり、奈良岡朋子さん扮する女性係長が新たに指揮を執ります。
更なる新メンバーとして喜多刑事(寺尾聰、ニックネーム無し)が加入、そして警察学校の教官を務めてた長さん(下川辰平)も現場復帰し、一係が総勢9名の大所帯に。
ボスが女性になった事で、一係が更に家族的な雰囲気を醸し出すようになった気がします。これは多分、奈良岡さんがクールな管理職を演じながら、同時に日本の「おふくろさん」的イメージをも表現されてたからでしょう。そこはさすが、裕次郎さんに最も尊敬されてた女優さんです。
でもこのシリーズの見所は、何と言っても喜多&ブルースのコンビかと私は思います。
都会的なクールさと飄々とした軽さを兼ね備える、ハードボイルドな喜多さん。一方、登場初期の冷静さはどこへやら、どんどん短気というかバカになっていくw、無頼漢のブルース。このアウトローな2人組が活躍する#02『探偵物語』と#08『ビッグ・ショット』は出色の出来映えでした。
ほか、かつての警察犬シリーズとは違う、ホームドラマ的な味わいや哀愁に泣かされるDJ刑事編の#03『老犬ムク』や、妻に重傷を負わせた犯人(阿藤海)を追って、復讐の鬼と化したブルースが神戸で大暴れする#11『神戸・愛の暴走』等、見応えあるエピソードが多く、今のところ商品化もCS放映もされない幻の作品になっちゃってるのは勿体無い限りです。
この『PART2』終了時に催された「さよさらパーティー」には、ハワイで療養中の裕次郎ボスから声のメッセージが届いたり、ジーパン=松田優作さんが会場に駆けつけるというサプライズもありました。ショーケンさんと同じで『太陽』に関しては悪口しか言わなかった優作さんですが、ちゃんと愛しておられたんですよね。
その優作さんがファンへのメッセージを求められた際に言われた台詞が、「早く『太陽』を卒業して、映画館に来なさい」でした。いやー、耳が痛いw
☆1987年『ジャングル』『NEWジャングル』
さて、金曜夜8時、“『太陽にほえろ!』の後番組”というハンパ無いプレッシャーを背負って誕生したのが、「大型刑事ドラマ’87ニューモデル」と銘打たれた『ジャングル』です。岡田晋吉CP以下、ほとんど『太陽』と同じスタッフで製作されました。(音楽は林哲司さんにチェンジ)
舞台も同じ東京・新宿、七曲署の次って事で「八坂署」。まさに正統な続編と言って差し支え無いと思いますが、ドラマとしての内容は大きく変わりました。『太陽』が最初はそうだったように、既成の刑事ドラマの常識を覆すような、斬新な手法をアグレッシブに取り入れたんですね。
刑事達が交代で主役を演じて毎回1つの事件を追うのではなく、複数の事件捜査を同時進行させ、主役を絞らずに群像劇として描き、1話完結とせず大事件は数週をかけて解決させる。
要するに現実の警察により近いリアリティを追求したワケですね。カメラワークも人物アップを多用した『太陽』とは対照的に、室内シーンをわざわざ望遠レンズで撮ったり、長回しを多用する等、黒澤映画ばりの演出が取り入れられました。
キャスティングも、どちらかと言えば映画的な、自然体の芝居を得意とする俳優さんが集められました。まず係長に鹿賀丈史、課長に江守徹、本庁刑事に竜雷太、ほか桑名正博、勝野洋、火野正平、西山浩司、香坂みゆき、田中実、山口粧太、山谷初男、安原義人と、総勢12名!
さらに鹿賀さんの妻に真野響子、桑名さんの元妻に永島映子、山口さんの恋人に高樹沙耶、勝野さんの妻に友里千賀子といったセミレギュラーも加わります。
事件捜査だけじゃなくて刑事の描かれ方もリアリティ重視で、正義のヒーローだった『太陽』と違って、例えば係長の鹿賀さんは5時になったらサッサと帰宅し、妻との時間を大切にするようなサラリーマン的キャラだし、元マル暴担当だった桑名さんは暴力団と内通してたりする。
そんな感情移入しづらいキャラクター達が、繋がりのない別個の事件捜査を同時進行させ、必ずしもスッキリ解決しなかったりする『ジャングル』の作劇は、どうやら保守的なテレビ視聴者を大いに困惑させちゃったようで、視聴率は苦戦する結果となりました。
後に竜雷太さんは『ジャングル』を振り返って「あれはハッキリ言って失敗だった。ちょっと受けを狙い過ぎた」なんて語られてます。受けを狙い過ぎたってのは恐らく、視聴者じゃなくて玄人ウケを意識し過ぎたって事でしょうね。
物凄く志の高いドラマ創りには違いないんだけど、気合いが空回りしたと言うか、クリエイティブ過ぎて一般視聴者の嗜好とはかけ離れちゃったんだと思います。
『ジャングル』と似たような事をしながら、視聴者ウケするベタな要素を巧みに取り入れて大成功したのが、後の『踊る大捜査線』ですね。あれも最初は本当にクリエイティブなドラマだったけど、すぐに数字や記録に囚われてダメになっちゃいました。亀山のせいですw
『ジャングル』も視聴率を無視するワケには行かず、徐々に作劇を『太陽にほえろ!』で馴染んだ手法に戻して行く事になります。最終回は結局、新人刑事=山口粧太の殉職劇になっちゃいましたからね。
そして映画デビュー直後の江口洋介を新人刑事として前面に押し出した次作『NEWジャングル』に至っては、完全に『太陽にほえろ!』の世界観に先祖帰りしたばかりか、『太陽』で好評だったエピソードをリメイクする等の試みも。
斬新な番組を成功させる事がいかに難しいか、質の高さが必ずしも人気を呼ぶとは限らないって事を、図らずもこのドラマは証明しちゃいましたね。『ジャングル』『NEWジャングル』合わせて1年。『太陽』を引き継ぐ長寿番組とはなり得ませんでした。
創り手の端くれだった私は『ジャングル』のチャレンジ精神をリスペクトしてますけど、一視聴者としては正直なところ、王道に戻った『NEWジャングル』の方が観やすく、面白いと感じたのも事実です。
いずれにせよ、クォリティーはダントツに高いこの作品が、『太陽2』と同じく商品化も再放送もされない幻のドラマになっちゃってるのが、とても残念です。
☆1990年〜『刑事貴族』シリーズ
日テレの金曜夜8時は伝統の刑事ドラマ枠とされて来ましたが、このシリーズが結果的に最終作となりました。東宝テレビ部の製作で、やはり『太陽』のスタッフが数多く参加されてます。これこそが『太陽にほえろ!』最終シリーズと捉えて良いんじゃないかと、私は思ってます。
舘ひろし主演による第1シリーズは、舘さんの一匹狼的なイメージを押し出したハードボイルド・アクションですが、松方弘樹ボスを筆頭に黒木瞳、布施博、布川敏和、地井武男と並ぶレギュラー陣は、明らかに『太陽にほえろ!』の初期オリジナル・メンバーを再現したキャスティングと思われます。
主演を郷ひろみにバトンタッチしてからは、レギュラー陣が交代でメインを担当する『太陽』型の作劇により近づき、ここでも『太陽』の名エピソードが何本かリメイクされてます。
水谷豊を中心に据えた『刑事貴族2』『刑事貴族3』になると、番組カラーは水谷さん独自の軽妙なノリに染められ、アイドルの中山忍や鳥越マリ、彦麿呂が刑事を演じるハチャメチャな世界へと変貌して行きます。
この辺りになると、さすがの私もついて行けなかったですね。自分が歳を重ねちゃったせいもあるけど、若手俳優達があまりに青臭くて、ガキンチョの刑事物ごっこにしか見えないんですよ。だったら『コドモ警察』を観てる方がよっぽど楽しいですw
このシリーズが終了した頃にちょうど『古畑任三郎』や『踊る大捜査線』など、ビデオ撮りによる新感覚の刑事物が登場します。フィルム撮りによる『太陽』型刑事ドラマの伝統は、ここでついに絶滅を迎えるのでした。
ところがどっこい、1997年『太陽にほえろ!』放送開始25周年イヤーに、七曲署はしぶとく復活する事になります。
(まだ続くw)