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七曲署ヒストリーPart.4

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『太陽にほえろ!』が「お化け番組」と呼ばれる程の人気を得た理由を挙げるとしたら、まず頭に浮かぶのはスターの魅力かと思います。

何しろ銀幕のスーパースター石原裕次郎とGSのアイドル萩原健一のW主演で始まった番組ですから、今で言えば高倉健さんとキムタクが同じドラマに出演するようなもの、と言っても過言じゃないと思います。

もう一つは前々回に書いた、テーマ音楽の魅力ですね。番組のヒットの要因として、メディアでもよく言われるのはこの2つかと思います。

だけど、それだけの要素で15年も続くロングランが果たせたでしょうか? いくら魅力的なスターが出てて格好良いテーマ曲がついてても、それだけならすぐに飽きられちゃう筈です。

何より大切なのは、ストーリーの良さ。つまり脚本の質が高くなければ、視聴者はついて行かないと思います。4番バッターばかり集めても、采配がマズければ試合に勝てないですもんね。

私は色んな刑事ドラマを観て来ましたが、どの番組も、特に『太陽』が放映されてた時代の刑事物って、「なんじゃこの話は?」って言いたくなる、ヘンなエピソードがちょくちょく見られたもんでした。

辻褄が合ってなかったり、展開があまりに強引だったり、何が言いたいのかサッパリ分かんなかったり… 要するに、脚本がちゃんと練られてない作品が多かったんです。

でも『太陽にほえろ!』だけは、実に730本ものエピソードがあるにも関わらず、そういうデタラメな脚本は1本たりとも無かったですからね!

そりゃまぁ、いまいち共感出来なかったり、盛り上がりに欠けるなぁって感じる回はあったにしても、「なんじゃこの話は?」っていうのは1本も無かった。当時はそれが当たり前と思って観てましたけど、今思えばこれは本当に凄い事です。

昨今のドラマは10〜13本で終わっちゃいますから、脚本の精度を上げる(すなわち何度も書き直しをする)事はそれほど困難でもない筈です。でも『太陽』は15年間、休まずに延々と続いてたワケです。

1話分を撮影するのに普通なら10日ほどかかりますから、当然ながら毎週の放映に追いつかなくなっちゃう。だから『太陽』の現場は1班が脚本を2本分抱えて、2班体制で撮影されてたそうです。

つまり4話分を同時進行させて撮る、なんて事がザラにあったワケです。メインスタッフは15年間、おそらく1日たりとも休めなかったんじゃないでしょうか?

そんな状況の中で、脚本のレベルを常に一定のライン以上に保つ事が、いかに大変な事か、今の私にはよーく分かります。何度も書き直しを重ねないと、あれだけのレベルにはなりませんからホントに。

『太陽』の脚本は他の番組のやり方と少し違って、メインライターの小川英さんが全ての脚本をチェックし、直しを入れる作業に専念されてたんですね。小川さんご自身が最初から筆を取って書き上げた脚本って、マカロニの殉職編ぐらいしか無くて、ほとんどは別のライターさんとの共作なんです。

そうする事によって、色んな新しい才能を取り込みながら統一感も保てるし、常に客観的な視点から脚本を手直し出来る(独りよがりな脚本にならない)メリットがあるワケです。黒澤明監督の脚本作りに近いやり方かも知れません。

全ての脚本をチェックして直す作業も大変だし、書くたびに厳しいチェックを入れられる他のライター陣も大変だった事でしょう。業界でも『太陽』の脚本現場は地獄らしいと認知されてた位、とにかく脚本に手を抜かなかったんですね。

地獄と噂されたのは直しの多さだけじゃなくて、「縛り」の厳しさも要因にあったかと思われます。「セックスは絶対タブー。セックスセックス」ってのが代表例ですね。当然ながら乳首も禁止です(泣)。犯罪を描くのに性をほのめかす事も出来ないってのは、ライターさんにとっては大きな足枷だったみたいです。

でも岡田晋吉プロデューサーがノンセックスにこだわったのは、モラルの問題だけじゃないと思います。岡田さんが何より大事にしたかったのは、『太陽にほえろ!』はあくまで「刑事のドラマ」であるっていう大原則なんですよね。

『太陽』以前の刑事物と言えば、描かれるのは事件の顛末と犯罪者の心理であって、刑事はあくまで狂言回し。道案内の役割しか担ってなかったワケです。

そんな時代に、刑事が事件の捜査を通して何を感じ、何を学んで成長するのか?を中心に描く、本当の意味での「刑事ドラマ」に初めて取り組んだのが『太陽にほえろ!』なんですね。

それまでの刑事物が犯人の心理ばかり描いて、刑事側の心情はまるっきり無視してた、っていうワケでも無いとは思いますが、『太陽』ほど徹底して刑事側の人間性を掘り下げて描いたドラマは他に無かった筈です。

脚本家としては、刑事の心情を描くよりも犯罪者の心理を描く方が、話は作り易いんですよね。サスペンスを盛り上げたり複雑な事件を描いて見せる方が、やり甲斐もある事でしょう。

ところがあろう事か岡田Pは、そんな脚本を書いて来たライターに対して「事件(犯人)なんかどうでもいいんだ!」と言い放っちゃう。いくら何でもそれは暴論だと思うけどw、それだけ刑事の心情を描く事に強くこだわっておられたんですね。

だから、刑事の身内が犯罪に巻き込まれたりとか、刑事が好きになった異性が実は犯罪者だった、みたいな話がやたら多いのは、ライターさんの発想が貧困なワケじゃなくて、岡田Pのせいなんですw

でもそれこそが、多くの視聴者の心をつかんだ最大の要因なんじゃないでしょうか? 職業としての刑事(警察)が好きか嫌いかは別にして、やっぱりレギュラーの登場人物に感情移入する方が、連ドラは楽しいに決まってますからね。

そして私が今、多部ちゃんが出てるにも関わらず『ラストホープ』にのめり込めないのも、明らかに岡田さんのせいですw 謎解きなんかどーでもいい! レギュラー登場人物の心情をちゃんと描いてくれ!って、私をそういう体質にしたのは間違いなく『太陽にほえろ!』ですよw

さらに言えば、私がこんなスケベな人間になってしまったのも、『太陽』があまりに禁欲的だったせいに決まってます。

そんな『太陽』の歴史の中でも、’76年の秋から’77年の春にかけて描かれたスコッチ刑事編は、特に濃密な「刑事(人間)ドラマ」が描かれました。

#217 スコッチ刑事登場!

この時期、七曲署捜査第一係のチームワークはドラマ上でも現実(撮影現場)でも絶好調で、対立が起きる気配すら感じさせませんでした。それは見てて心地良いものではあるけど、同時に刺激が無くてつまんないとも言えます。

そんな視聴者の空気を敏感に察した岡田Pは、あえてチームワークを掻き乱すキャラクターをテキサスの後任に投入します。それがスコッチ刑事(沖雅也)。

捜査は非情、基本的に人を信じない、誰とも組まない、そしてすぐに発砲するという、問題だらけの厄介者。そういう、大抵の組織じゃ爪弾きにされちゃうようなのを拾って来るのが、ボスの趣味だったりするんですよねw

でも、スコッチは最初からそういう人間だったワケじゃないんです。犯人を追跡中、自分が発砲を一瞬ためらったせいで、尊敬する先輩刑事が撃たれて殉職しちゃったトラウマが、彼を変えてしまった。

本来は繊細で優しい男だったからこそ、二度と仲間を失いたくない、だから仲間は作らない、人を受け入れない、そして撃たれる前に撃つ!って、要するに殻に閉じこもっちゃった。

沖さんが半年限定の出演って最初から決まってた事もあり、このスコッチ編は綿密にシリーズ構成されて、深く傷ついて殻に閉じこもった一人の男が、懐の深い上司と温かい仲間達に囲まれ、本来の人間性を取り戻していく姿が、実に丁寧に描かれてます。
 
スコッチ登場に伴い、BGMも大量に新録され、番組の雰囲気も大きく変わりました。若者向け青春ドラマの名残が強かったそれまでとは違い、よりサスペンスフルに、より叙情的に、『太陽』は大人の鑑賞に耐えうる娯楽ドラマへと脱皮して行くのでした。

#225 疑惑

徐々に心を開きつつあったスコッチが、過去のトラウマだった例の事件と真っ向から向き合い、克服して、立ち直りの第一歩を踏み出すエピソードです。

殉職した先輩刑事の幼い息子が、スコッチに対してやたら素っ気ない態度で、てっきり父親の死をスコッチのせいにして恨んでるのかと思いきや、実はあの時からスコッチが遊びに来なくなった事を怒ってた。

それを知ったスコッチが、まるで自らを解き放つようにその子と無邪気に遊び始めるんですよね。本放映当時は私も子供だったんでピンと来なかったけど、今観たら号泣ですよw

☆1977年

この頃から各テレビ局が刑事ドラマの製作に本腰を入れ始め、いったい週に何本放映されてるのか分かんない、粗製濫造とも言える刑事物バブルの時代に入って行きます。

そんな中でも『特捜最前線』『華麗なる刑事』『二人の事件簿』『刑事犬カール』といった意欲作、ヒット作が生まれ、特に『特捜最前線』の存在は『太陽』に少なからず影響を与えたんじゃないかと個人的には思ってます。それについては又、後ほど…

あと、『太陽』を卒業した勝野洋さんには『俺たちの朝』という主演作が用意され、アイドル歌手だった長谷直美さん(後のマミー刑事)も、そのドラマで女優デビューを果たされてます。

#244 さらば、スコッチ!

血と泥にまみれたスコッチが映る予告編を観た時、私は愕然としました。スコッチ、もう死んじゃうの!?って。翌日、クラスでも話題沸騰でした。「転勤」である事は既にテレビ誌や学年誌で報じられてたみたいだけど、私ら田舎もんでしたからw

かつての婚約者(夏純子)が少年に撃たれ、息を引き取る寸前に、スコッチに残した言葉…

「あの子は悪い子じゃない。信じてあげて」

誰も信じず、「撃たれる前に撃つ」が信条だった筈のスコッチが、丸腰で少年と対峙し、撃たれながらも彼を信じ、自首するように説得する。

本来の優しさを完全に取り戻したスコッチでしたが、これまで積み重ねた問題行動がアダとなり、へんぴな山田署へと飛ばされる羽目に。でも、その表情は穏やかなんですよね。

当時まだガキンチョで、辛気臭いのが苦手だった私(今もだけどw)には、スコッチが背負う悲しみや孤独の意味がよく解ってなかったんだけど、大人になってから観直したらもう、また号泣ですw

スコッチはこの後、2度のゲスト出演を経て、’80年に『太陽』の危機を救うべく七曲署にカムバックする事となります。

#251 辞表

スコッチが転勤してからの1クール=3カ月間、一係は6人体制になります。これまではテキサスやスコッチの後輩で、やがてロッキー刑事の先輩になるボンが、若手一人で活躍した唯一の期間です。

ボンが好きでした。スコッチが登場して以来、ちょっとダークな雰囲気になりがちだった捜査一係を、ボンの明るさと人なつっこさがどれだけ和ませてくれた事か!

辛気臭いのがチョー苦手な私にとって、ボンの存在はまさにオアシスでした。テキサス時代も普通に好きだったけど、この時期からボンは私にとって、特別な存在になってました。

それを決定づけたのが、この『辞表』ってエピソードなんですね。ボンが追跡してた容疑者が転落事故で死んでしまい、その妹(麻丘めぐみ)に「人殺し!」って責められて、ボンは夜中こっそりボスの机に辞表を置き、失踪しちゃう。

で、一係の仲間達が個別にボンを探し出して、それぞれの言葉で励ますんだけど、ボンの罪悪感は消えやしない。歴代の新人刑事達もこのテの壁にはぶつかって来たけど、ボンほどとことん凹んじゃう人は初めて見ましたw

でも、そんなボンの女々しさにこそ、現代っ子の私は強く共感出来たんですよね。七曲署の刑事の中で、これほど完璧に自己投影させてくれた人って、後にも先にもボンだけかも知れません。

結局、死んだ容疑者が完全にクロだった事が判明し、その仲間に狙われた妹の危機を、命がけで救ったボン。それでも、すっかりとは立ち直らないんです。

ラストシーン、まだ刑事を続けるかどうか迷ってるボンに、ボスは続けろとも辞めろとも言わず、ただいつも通りのフランクな言い方で「お前、逃げるなよ」って。そこでボンがやっと笑って「はい!」って返事する。

それで終わっちゃったから「えっ、結局辞めるの? 辞めないの?」って、大いに気を揉みながら次回の予告を観たら、ボンが普通に活躍してるからホッとして…w

このエピソードで私は、初めて七曲署の一員になれたように感じたのかも知れません。自分と同じような弱さを持った、ボンがいてくれたお陰で…

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