#112 テキサス刑事登場!
さて、3年目に突入した『太陽にほえろ!』は、またもや大胆な賭けに出ます。松田優作に続いて全く無名の新人俳優をキャスティングするワケですが、これまでの人気を築いたショーケンさんや優作さんの、長髪で反体制的なイメージとは正反対な人を選んじゃうんですよね。
それが、テキサス刑事こと勝野洋さんです。角刈りで、いかにも体育会系の爽やかさですから、マカロニやジーパンのアウトロー的な格好良さに憧れてたファンは、それこそ「なんじゃこりゃあー!?」ですよねw
実際、私より上の世代の男子は、テキサスで試聴をやめちゃったと仰る人が多いです。当然、それは覚悟の上のキャスティングだったかと思います。でも、まだ幼かった私はコワモテのジーパンよりもテキサスの方が親しみ易くて、かえって『太陽』ワールドに引き込まれる羽目になりました。
『太陽』の生みの親である岡田晋吉プロデューサーは、番組の視聴率が30%を超えた時点で、若者以外のファン層を意識されるようになったそうです。子供からお年寄りまで、幅広い層に受け入れられるキャラクターが必要だと。
それと、番組人気が拡大した分、社会的な責任も負わなくちゃならないって事で、若い世代の模範になり得るキャラクターにもしたかった。ずっと青春ドラマを創って来られた方だけに、非常に生真面目なんですねw
マカロニは長髪だし反抗的だし言葉遣いは悪いし、ツバは吐くわ立ちションするわでw、その不良性こそが魅力とは言え、若者の模範には程遠かったワケです。ジーパンは純朴キャラだけど、ボソボソ喋るし煙草は吸うしグラサンしてるし喧嘩は強すぎるし、でもカッコイイから子供は真似したくなるワケで…
30%以上の家庭で観られる番組になったからには、視聴者に与える影響も考えてドラマ創りをしないといけない。そんな『太陽』の良心を象徴するキャラクターが、テキサスなんですね。
なお、シンコはジーパン殉職を機に退職、お茶汲みの久美ちゃんもテキサス登場から間もなく降板。代わって、2代目マスコットガール・チャコ役で浅野ゆう子さんがレギュラー入りします。
ご存知でしたか? 後にトレンディー女優の代名詞になる浅野さんが、七曲署でお茶汲みをしていた事を! 実は浅野さん、『太陽』ファンの女性達から嫌われ、カミソリ入りの手紙を山ほど送られて、やむなく1クールで降板せざるを得なくなったんです。
当時まだ10代のアイドル歌手だった浅野ゆう子さんですが、どうやら華があり過ぎたんですね。前任の青木英美さんも色気はあったけど、洗練されてたしオトコマエな感じもあったから、女性の反感は買わずに済んだ。
浅野さんも私の眼にはサバサバした人に見えるんだけど、女性から見るとブリッコであり、オンナを感じさせたんでしょうね。殿下あたりに萌える女子達の、嫉妬を思いっきり食らっちゃったワケです。
まだ少女の浅野さんにはお気の毒でしたが、これも当時の『太陽』人気を物語る裏エピソードですよね。
#132 走れ!ナポレオン
『ドーベルマン・ギャング』だったかと思いますが、訓練されたドーベルマン犬が銀行強盗に利用されるアメリカ映画がヒットして、『太陽』でもそれをモチーフにしたエピソードが創られました。
ここで強盗の片棒を担ぐのは3匹のシェパードで、その内の1匹がナポレオン。負傷したナポレオンは、面倒を看るテキサスと心を通わせるようになり、犯人逮捕に協力します。
そしてナポレオンは警察犬に採用され、「ジュン」と改名されて『太陽』のセミレギュラー出演者として長期に渡り活躍、私らファンも「犬シリーズ」と呼んで楽しみにしてました。
今の眼で見ると、テキサスの殉職を知ったジュンが涙を流したりw、ちょっと擬人化が過ぎて苦笑しちゃう場面も多いんだけど、そんな演出にも何となく納得させられるような勢いが、当時の『太陽』にはありました。
現に、明らかにこの犬シリーズの影響を受けたであろう『刑事犬カール』や『爆走!ドーベルマン刑事』といったTVシリーズが、後に創られましたからね。多部ちゃんの『デカワンコ』もその延長線上にあると言って差し支えは無いでしょう。
☆1975年
さて、3代目の新人刑事=主役であるテキサスですが、演じる勝野さんは劇団員ではあったものの本来は裏方志望で、実はこの大抜擢オファーを何度も断ってたんだそうですw
それでも岡田Pに食い下がられ、根負けして「ほんとに僕は芝居出来ないですよ」と念押しし、渋々出演する事にw で、いざ撮影が始まったらホントに芝居が出来なかった!w
裕次郎さんが「やれやれ、『太陽』もテキサスで終わりだな」とボヤかれた位、初期の勝野さんはホントに下手だった。だけど、それでも一生懸命に取り組む姿が劇中のテキサス像と重なり、視聴者のハートに響いたのか、気がつけばマカロニやジーパンを凌ぐ人気者に。
と同時に、芝居が拙いテキサスをカバーすべく他のレギュラー刑事達の活躍もより一層強化され、全員が主役として成立する『太陽にほえろ!』のスタイルが確立する事にもなりました。
テキサスで終わりどころか、いよいよ巨大なお化け番組となって日テレの看板を背負う存在になった『太陽』は、同じブレーンでショーケン&水谷豊の探偵物『傷だらけの天使』、松田優作&中村雅俊の刑事物『俺たちの勲章』等、副産物としての新たな人気ドラマも生み出して行きます。
それを見て他局が手をこまねいてる筈がなく、大スターを起用して勝負をかけた刑事ドラマが次々と登場する事になります。その中でいち早く人気を獲得したのが、丹波哲郎さんをボスに据えたTBSの『Gメン’75』です。
#155 家族
『太陽』はある意味、ドラマの総合デパートです。ボスが主役ならハードボイルド(特に初期は日活の匂いプンプン)、テキサスなら青春(成長)ドラマ、ゴリさんなら熱血アクション、殿下なら女性絡み、山さんなら本格ミステリー(この時期はかなり刑事コロンボを意識、髪の毛も伸びてカーリースタイルに)と、誰がその週の主役を勤めるかによって、並ぶ商品が違って来るんです。
そんな中で最年長の長さんは、最もスタンダードな捜査ドラマを見せてくれました。現実の警察関係者達が口を揃えて「長さんが一番リアル」と評した程に、最も刑事らしい刑事が長さんでした。
捜査一係で唯一人、ごく普通の家庭を築いてる点でも、長さんってスタンダードなんですよね。山さんは奥さんが病弱で子供が授からず、後に養子をもらう事になるし、他のメンバーはボスをはじめ全員、チョンガー(独身)ですからね。
だから長さんは『太陽』デパートのホームドラマ売り場も担当、娘の思春期から結婚問題、息子の反抗期から受験、就職問題に至るまで、10年に渡って描かれる事になります。
で、この『家族』ってエピソードは長さんファミリーが旅行先で事件に巻き込まれる話で、とても印象に残ってます。
刑事の家族が危険に晒される話は他のドラマにもあるでしょうけど、家族全員が犯人と対決する羽目になるシチュエーションって、けっこう珍しいのでは? 全員キャラが立ってる長さんファミリーだからこそ成立するエピソードかも知れません。
#163 ぼんぼん刑事登場!
テキサスも当初は1年で殉職するプランがあったみたいですが、ファンから助命嘆願の投書が殺到したのと、あまり殉職をパターン化させたくない製作陣の意向もあって、テキサスはもう1年だけ生き延びる事に。(勝野さんはガッカリw)
で、大阪生まれの甘えんぼう刑事・ボン(宮内淳)が新加入し、『太陽』は若手刑事2人体制という新たなステージへと進んで行きます。
祖母(ミヤコ蝶々)に付き添われて初出勤したボンもまた、マカロニやジーパンとはかけ離れたキャラクターですが、これは質実剛健なテキサスとの組み合わせを考えての起用だったそうです。
このテキサス&ボンのコンビは、後にリポビタンDのCMキャラクターに抜擢され、あの「ファイト、一発!」の初代コンビを務める事にもなります。
あと、浅野ゆう子さん降板から1年、ようやく3代目のマスコットガールも決定します。七曲署のお茶汲み係と言えば、この「アッコ」を思い出す人が多いのではないでしょうか?
演じる木村理恵さんは小柄で清楚で控えめ、いわゆる小動物系のキャラで、女性視聴者にも快く受け入れられた模様ですw
3年以上もマスコットガールを務めた木村さんは『特捜最前線』にも大滝秀治さんの娘役でセミレギュラー出演する等、刑事物フェチには馴染み深い女優さんですね。
☆1976年
この年、いよいよ石原プロがTVドラマ製作に着手し、渡哲也さんをフィーチャーした刑事物『大都会』シリーズがスタートします。
ホントしつこくて申し訳ないのですがw、ここでもう一度だけ念押ししますと、『太陽にほえろ!』は東宝テレビ部の作品であって、石原プロとは無関係です。
別に『太陽』が石原プロ作品より優れてるだとか、出来れば乳首に蜂蜜でも塗ってもらうと吸い易いだとか、そんな事が言いたいワケではありません。ただ、とにかく違うんです!とw
だって『大都会』や『西部警察』は、裕次郎さんがご自身で製作して出演されてるワケです。それに対して『太陽』は、映画界のスーパースターだったこの方を大緊張の中でお迎えし、1クールで降板しようとされるのを必死に説得して、最終的には15年ですよ。
やっぱりねぇ、ゴッチャにされたくないんです。どっちが良い悪いじゃない。とにかく、違うんです!w
#200 すべてを賭けて
殿下は既に2度の恋愛が描かれ(お相手は有吉ひとみさんと真野響子さん)、いずれも悲恋に終わってます。そしてやっと春が訪れた感じだったゴリさんも、この200回記念作品で悲しい別離を迎えます。
武原英子さん扮する恋人との結婚を間近に控えたゴリさん。ところが、彼女の叔父が犯罪を犯してしまう。警察官は、犯罪者の肉親とは結婚が許されない。
ゴリさんは苦悩の末、刑事を辞める決意をし、ボスも了承するんだけど、彼女が身を引いちゃうんです。ゴリさんに、刑事のままでいて欲しかったから… 泣けます。
#206 刑事の妻が死んだ日
そして今度は、心臓を患ってた山さんの奥さんが、発作を起こして亡くなります。こうして列挙すると、『太陽』の刑事達ってホント、幸せになれないんですねw
山さんは奥さんを心から愛してるんだけど、根っからの刑事だから犯罪者をどうしても放っておけず、とうとう奥さんの死に目にも会わずじまい。
でも奥さんは、そんな山さんを理解してるんです。骨の髄まで刑事である山さんを。だから、微笑みながら死んで行くんですよね。
ゴリさんの婚約者といい山さんの奥さんといい、ちょっと今の時代だと成立しないですよね、たぶん。今、こんな男女の在り方をドラマで描いたら、クレームが殺到するか、それ以前に「あり得ない」って、一笑に付されるだけかも知れません。
時代です。こんな男女のドラマが、まだ成立して人々を感動させてた時代なんです。
#216 テキサスは死なず!
そして、とうとうテキサスも死んじゃうし! 不幸のオンパレードじゃないスかw でも、勝野さんはやっと肩の荷が下りて嬉しかったでしょうねw
「あっさり死にたい」という勝野さんのリクエストも虚しく、テキサスには『太陽』史上でも一番派手な殉職シーンが演出されました。これは創り手のテキサスに対する愛あればこそですね。
観た人はみんな口を揃えて「何十発も撃たれてた」って言うんだけど、よく見るとテキサスがマトモに食らった弾丸は3発程度なんですよね。だけど、その時の仁王立ちするテキサスがあまりに凄まじい迫力で、記憶が増幅されちゃうみたいです。
挫折の時代に相応しく「犬死に」だったマカロニやジーパンと違って、テキサスの死はヒロイックに、壮絶だけど実に美しく描かれました。その辺りにも、時代の変化が感じられますね。
私は正直、テキサスの殉職劇は演出過多で「ちょっとクサいなぁ」とw、子供心に思ってました。死んだ後、一係のメンバー1人1人に天国の(?)テキサスが呼び掛けるんですよね。「ゴリさん! ゴリさん! ゴリさ〜ん!」ってw
『太陽』への愛は深まる一方なんだけど、刑事の殉職が美化されてセレモニー化する傾向には、ちょっと違和感を抱いたりもしてました。
だけど『テキサスは死なず!』は歴代最高視聴率42%をマーク、いよいよ『太陽にほえろ!』は絶頂期を迎えます。
(Part.4へと続く)
さて、3年目に突入した『太陽にほえろ!』は、またもや大胆な賭けに出ます。松田優作に続いて全く無名の新人俳優をキャスティングするワケですが、これまでの人気を築いたショーケンさんや優作さんの、長髪で反体制的なイメージとは正反対な人を選んじゃうんですよね。
それが、テキサス刑事こと勝野洋さんです。角刈りで、いかにも体育会系の爽やかさですから、マカロニやジーパンのアウトロー的な格好良さに憧れてたファンは、それこそ「なんじゃこりゃあー!?」ですよねw
実際、私より上の世代の男子は、テキサスで試聴をやめちゃったと仰る人が多いです。当然、それは覚悟の上のキャスティングだったかと思います。でも、まだ幼かった私はコワモテのジーパンよりもテキサスの方が親しみ易くて、かえって『太陽』ワールドに引き込まれる羽目になりました。
『太陽』の生みの親である岡田晋吉プロデューサーは、番組の視聴率が30%を超えた時点で、若者以外のファン層を意識されるようになったそうです。子供からお年寄りまで、幅広い層に受け入れられるキャラクターが必要だと。
それと、番組人気が拡大した分、社会的な責任も負わなくちゃならないって事で、若い世代の模範になり得るキャラクターにもしたかった。ずっと青春ドラマを創って来られた方だけに、非常に生真面目なんですねw
マカロニは長髪だし反抗的だし言葉遣いは悪いし、ツバは吐くわ立ちションするわでw、その不良性こそが魅力とは言え、若者の模範には程遠かったワケです。ジーパンは純朴キャラだけど、ボソボソ喋るし煙草は吸うしグラサンしてるし喧嘩は強すぎるし、でもカッコイイから子供は真似したくなるワケで…
30%以上の家庭で観られる番組になったからには、視聴者に与える影響も考えてドラマ創りをしないといけない。そんな『太陽』の良心を象徴するキャラクターが、テキサスなんですね。
なお、シンコはジーパン殉職を機に退職、お茶汲みの久美ちゃんもテキサス登場から間もなく降板。代わって、2代目マスコットガール・チャコ役で浅野ゆう子さんがレギュラー入りします。
ご存知でしたか? 後にトレンディー女優の代名詞になる浅野さんが、七曲署でお茶汲みをしていた事を! 実は浅野さん、『太陽』ファンの女性達から嫌われ、カミソリ入りの手紙を山ほど送られて、やむなく1クールで降板せざるを得なくなったんです。
当時まだ10代のアイドル歌手だった浅野ゆう子さんですが、どうやら華があり過ぎたんですね。前任の青木英美さんも色気はあったけど、洗練されてたしオトコマエな感じもあったから、女性の反感は買わずに済んだ。
浅野さんも私の眼にはサバサバした人に見えるんだけど、女性から見るとブリッコであり、オンナを感じさせたんでしょうね。殿下あたりに萌える女子達の、嫉妬を思いっきり食らっちゃったワケです。
まだ少女の浅野さんにはお気の毒でしたが、これも当時の『太陽』人気を物語る裏エピソードですよね。
#132 走れ!ナポレオン
『ドーベルマン・ギャング』だったかと思いますが、訓練されたドーベルマン犬が銀行強盗に利用されるアメリカ映画がヒットして、『太陽』でもそれをモチーフにしたエピソードが創られました。
ここで強盗の片棒を担ぐのは3匹のシェパードで、その内の1匹がナポレオン。負傷したナポレオンは、面倒を看るテキサスと心を通わせるようになり、犯人逮捕に協力します。
そしてナポレオンは警察犬に採用され、「ジュン」と改名されて『太陽』のセミレギュラー出演者として長期に渡り活躍、私らファンも「犬シリーズ」と呼んで楽しみにしてました。
今の眼で見ると、テキサスの殉職を知ったジュンが涙を流したりw、ちょっと擬人化が過ぎて苦笑しちゃう場面も多いんだけど、そんな演出にも何となく納得させられるような勢いが、当時の『太陽』にはありました。
現に、明らかにこの犬シリーズの影響を受けたであろう『刑事犬カール』や『爆走!ドーベルマン刑事』といったTVシリーズが、後に創られましたからね。多部ちゃんの『デカワンコ』もその延長線上にあると言って差し支えは無いでしょう。
☆1975年
さて、3代目の新人刑事=主役であるテキサスですが、演じる勝野さんは劇団員ではあったものの本来は裏方志望で、実はこの大抜擢オファーを何度も断ってたんだそうですw
それでも岡田Pに食い下がられ、根負けして「ほんとに僕は芝居出来ないですよ」と念押しし、渋々出演する事にw で、いざ撮影が始まったらホントに芝居が出来なかった!w
裕次郎さんが「やれやれ、『太陽』もテキサスで終わりだな」とボヤかれた位、初期の勝野さんはホントに下手だった。だけど、それでも一生懸命に取り組む姿が劇中のテキサス像と重なり、視聴者のハートに響いたのか、気がつけばマカロニやジーパンを凌ぐ人気者に。
と同時に、芝居が拙いテキサスをカバーすべく他のレギュラー刑事達の活躍もより一層強化され、全員が主役として成立する『太陽にほえろ!』のスタイルが確立する事にもなりました。
テキサスで終わりどころか、いよいよ巨大なお化け番組となって日テレの看板を背負う存在になった『太陽』は、同じブレーンでショーケン&水谷豊の探偵物『傷だらけの天使』、松田優作&中村雅俊の刑事物『俺たちの勲章』等、副産物としての新たな人気ドラマも生み出して行きます。
それを見て他局が手をこまねいてる筈がなく、大スターを起用して勝負をかけた刑事ドラマが次々と登場する事になります。その中でいち早く人気を獲得したのが、丹波哲郎さんをボスに据えたTBSの『Gメン’75』です。
#155 家族
『太陽』はある意味、ドラマの総合デパートです。ボスが主役ならハードボイルド(特に初期は日活の匂いプンプン)、テキサスなら青春(成長)ドラマ、ゴリさんなら熱血アクション、殿下なら女性絡み、山さんなら本格ミステリー(この時期はかなり刑事コロンボを意識、髪の毛も伸びてカーリースタイルに)と、誰がその週の主役を勤めるかによって、並ぶ商品が違って来るんです。
そんな中で最年長の長さんは、最もスタンダードな捜査ドラマを見せてくれました。現実の警察関係者達が口を揃えて「長さんが一番リアル」と評した程に、最も刑事らしい刑事が長さんでした。
捜査一係で唯一人、ごく普通の家庭を築いてる点でも、長さんってスタンダードなんですよね。山さんは奥さんが病弱で子供が授からず、後に養子をもらう事になるし、他のメンバーはボスをはじめ全員、チョンガー(独身)ですからね。
だから長さんは『太陽』デパートのホームドラマ売り場も担当、娘の思春期から結婚問題、息子の反抗期から受験、就職問題に至るまで、10年に渡って描かれる事になります。
で、この『家族』ってエピソードは長さんファミリーが旅行先で事件に巻き込まれる話で、とても印象に残ってます。
刑事の家族が危険に晒される話は他のドラマにもあるでしょうけど、家族全員が犯人と対決する羽目になるシチュエーションって、けっこう珍しいのでは? 全員キャラが立ってる長さんファミリーだからこそ成立するエピソードかも知れません。
#163 ぼんぼん刑事登場!
テキサスも当初は1年で殉職するプランがあったみたいですが、ファンから助命嘆願の投書が殺到したのと、あまり殉職をパターン化させたくない製作陣の意向もあって、テキサスはもう1年だけ生き延びる事に。(勝野さんはガッカリw)
で、大阪生まれの甘えんぼう刑事・ボン(宮内淳)が新加入し、『太陽』は若手刑事2人体制という新たなステージへと進んで行きます。
祖母(ミヤコ蝶々)に付き添われて初出勤したボンもまた、マカロニやジーパンとはかけ離れたキャラクターですが、これは質実剛健なテキサスとの組み合わせを考えての起用だったそうです。
このテキサス&ボンのコンビは、後にリポビタンDのCMキャラクターに抜擢され、あの「ファイト、一発!」の初代コンビを務める事にもなります。
あと、浅野ゆう子さん降板から1年、ようやく3代目のマスコットガールも決定します。七曲署のお茶汲み係と言えば、この「アッコ」を思い出す人が多いのではないでしょうか?
演じる木村理恵さんは小柄で清楚で控えめ、いわゆる小動物系のキャラで、女性視聴者にも快く受け入れられた模様ですw
3年以上もマスコットガールを務めた木村さんは『特捜最前線』にも大滝秀治さんの娘役でセミレギュラー出演する等、刑事物フェチには馴染み深い女優さんですね。
☆1976年
この年、いよいよ石原プロがTVドラマ製作に着手し、渡哲也さんをフィーチャーした刑事物『大都会』シリーズがスタートします。
ホントしつこくて申し訳ないのですがw、ここでもう一度だけ念押ししますと、『太陽にほえろ!』は東宝テレビ部の作品であって、石原プロとは無関係です。
別に『太陽』が石原プロ作品より優れてるだとか、出来れば乳首に蜂蜜でも塗ってもらうと吸い易いだとか、そんな事が言いたいワケではありません。ただ、とにかく違うんです!とw
だって『大都会』や『西部警察』は、裕次郎さんがご自身で製作して出演されてるワケです。それに対して『太陽』は、映画界のスーパースターだったこの方を大緊張の中でお迎えし、1クールで降板しようとされるのを必死に説得して、最終的には15年ですよ。
やっぱりねぇ、ゴッチャにされたくないんです。どっちが良い悪いじゃない。とにかく、違うんです!w
#200 すべてを賭けて
殿下は既に2度の恋愛が描かれ(お相手は有吉ひとみさんと真野響子さん)、いずれも悲恋に終わってます。そしてやっと春が訪れた感じだったゴリさんも、この200回記念作品で悲しい別離を迎えます。
武原英子さん扮する恋人との結婚を間近に控えたゴリさん。ところが、彼女の叔父が犯罪を犯してしまう。警察官は、犯罪者の肉親とは結婚が許されない。
ゴリさんは苦悩の末、刑事を辞める決意をし、ボスも了承するんだけど、彼女が身を引いちゃうんです。ゴリさんに、刑事のままでいて欲しかったから… 泣けます。
#206 刑事の妻が死んだ日
そして今度は、心臓を患ってた山さんの奥さんが、発作を起こして亡くなります。こうして列挙すると、『太陽』の刑事達ってホント、幸せになれないんですねw
山さんは奥さんを心から愛してるんだけど、根っからの刑事だから犯罪者をどうしても放っておけず、とうとう奥さんの死に目にも会わずじまい。
でも奥さんは、そんな山さんを理解してるんです。骨の髄まで刑事である山さんを。だから、微笑みながら死んで行くんですよね。
ゴリさんの婚約者といい山さんの奥さんといい、ちょっと今の時代だと成立しないですよね、たぶん。今、こんな男女の在り方をドラマで描いたら、クレームが殺到するか、それ以前に「あり得ない」って、一笑に付されるだけかも知れません。
時代です。こんな男女のドラマが、まだ成立して人々を感動させてた時代なんです。
#216 テキサスは死なず!
そして、とうとうテキサスも死んじゃうし! 不幸のオンパレードじゃないスかw でも、勝野さんはやっと肩の荷が下りて嬉しかったでしょうねw
「あっさり死にたい」という勝野さんのリクエストも虚しく、テキサスには『太陽』史上でも一番派手な殉職シーンが演出されました。これは創り手のテキサスに対する愛あればこそですね。
観た人はみんな口を揃えて「何十発も撃たれてた」って言うんだけど、よく見るとテキサスがマトモに食らった弾丸は3発程度なんですよね。だけど、その時の仁王立ちするテキサスがあまりに凄まじい迫力で、記憶が増幅されちゃうみたいです。
挫折の時代に相応しく「犬死に」だったマカロニやジーパンと違って、テキサスの死はヒロイックに、壮絶だけど実に美しく描かれました。その辺りにも、時代の変化が感じられますね。
私は正直、テキサスの殉職劇は演出過多で「ちょっとクサいなぁ」とw、子供心に思ってました。死んだ後、一係のメンバー1人1人に天国の(?)テキサスが呼び掛けるんですよね。「ゴリさん! ゴリさん! ゴリさ〜ん!」ってw
『太陽』への愛は深まる一方なんだけど、刑事の殉職が美化されてセレモニー化する傾向には、ちょっと違和感を抱いたりもしてました。
だけど『テキサスは死なず!』は歴代最高視聴率42%をマーク、いよいよ『太陽にほえろ!』は絶頂期を迎えます。
(Part.4へと続く)