唐突ですが『太陽にほえろ!』の歴史をザッとおさらいします。これはほとんど、ひささんへの私信です(ビデオ鑑賞のお供にw)。
もちろん、ひささん以外で『太陽にほえろ!』をよく知らない方、あるいは観てたけどよく憶えてないと仰る方にも、私がこよなく愛するこのドラマがどんな番組だったか、この機会に知って頂ければ幸いです。
☆1972年(昭和47年)
#001 マカロニ刑事登場!
スタート時のメンバーはボス(石原裕次郎)、山さん(露口茂)、ゴリさん(竜雷太)、殿下(小野寺昭)、長さん(下川辰平)、そしてマカロニ(萩原健一)が新米刑事として着任します。放映は7月21日、犯人役は水谷豊さん。
この時、シンコ(関根恵子=後の高橋惠子)はまだ少年係の婦警でしたが、なぜか捜査一係に入り浸ってましたw 父親の宗吉(ハナ肇)がボスとかつての同僚刑事で、彼が営む小料理屋が一係メンバーの溜まり場になってます。
とにかく1年目は黎明期で、番組のコンセプトは初回から固まっていたものの、各刑事のキャラクターが後年とは微妙に違ってたりします。
一番顕著なのが山さんで、初期は角刈りだし、べらんめぇ口調でよく喋るオッサンだったりします。殿下も最初はプレイボーイのイメージだったのが、2年目あたりから生真面目キャラに定着。
要するに皆さん、最初はキャラをかなり作ってたのが、長く演じてる内にご本人の「地」にどんどん近づいて行っちゃうんですよね。
#014 そして拳銃に弾をこめた
ゴリさんは射撃の名手で、誰よりも銃の恐ろしさを解ってる人なんです。だから、普段は拳銃に弾丸を装填していなくて、ここぞって時に1発だけ入れて撃つ。
で、この第14話ではゴリさんが銃に弾を込めてなかったせいで、通りがかりの少女が犯人に撃たれちゃう。ゴリさんにはそうした拳銃絡みの厳しいエピソードが多くて、それは人命を何より尊重する『太陽』の精神を象徴してると思います。
だから『太陽』の刑事達は、やたらめったら銃は使わない。そこが『西部警察』とは根本的に違う所ですw
#020 そして愛は終わった
市川森一さんについて書いた時に触れた、マカロニがジュリーを射殺しちゃう屈指の名エピソード。以降、新米刑事が撃ちたくない犯人を射殺する試練にぶち当たり、乗り越えて成長する儀式も恒例化されて行きます。
『太陽』ではセックスセックスの話題を徹底して排除するのが鉄則とされてるんだけど、本作は近親相姦をほのめかす内容で「こんな脚本だけは書いてはならない」という見本にされたほどw、異色作でもあります。
放映は12月1日。この辺りで『太陽』も人気番組として世間に認知されたんじゃないでしょうか?
#023 愛あるかぎり
山さんは冷静沈着で頭脳明晰、また取り調べの名人なので「落としの山さん」ってなキャッチフレーズもついてる鬼刑事なんだけど、実は愛妻家である側面も描かれてました。
このエピソードでは心臓病を患う奥さんが立てこもり犯の人質にされ、山さんがうろたえる姿が見られます。犯人の言いなりになって、山さんが泥だらけの林檎をかじって見せる姿に私は号泣しましたよ。
☆1973年
#038 おしんこ刑事登場!
少年係の婦警だったシンコが、いよいよ捜査一係の刑事に昇格します。その任務の危険さを熟知する父・宗吉がボスに怒鳴り込みに来る一幕もありました。
刑事ドラマのレギュラー刑事に女性が加わるのは、当時じゃかなり進んだ画期的な設定で、後の男勝りなマミー刑事(長谷直美)とは違って、女性であるがゆえに先輩達の足を引っ張るような描写が目立つのも、時代を表してますね。
#044 闇に向かって撃て
『太陽』には魅力的なセミレギュラーのキャラクターも何人か存在します。中でも、マカロニですら顔負けの八方破れな暴走刑事=鮫やん(藤岡琢也)は私、大好きでした。この人もボスの元同僚です。
藤岡さんの軽快な大阪弁によるアドリブ芝居が絶品で、『太陽』が終了する’86年まで不定期に登場する、実は山さんよりも息の長いキャラクターなんですね。そんな鮫やんを生み出したのも、市川森一さんだったりします。
#052 13日金曜日マカロニ死す
「もうマカロニは成長しちゃったから、このドラマでやるべき事はもう無い。殺してくれ」ってショーケンさんが言い出して、局側がどんだけ説得しても断固として聞き入れず、やむなく設定された殉職劇。
ところがこれが絶大なる反響を呼び、番組の人気をさらに跳ね上げる結果となって、皮肉にも『太陽』がバラエティー番組とかで紹介される際には必ず歴代刑事の殉職シーンが流れるほどの、名物になっちゃったのでした。
#053 ジーパン刑事登場!
『太陽』は新人刑事の成長を描くドラマですから、言わばマカロニが主人公。つまり番組の途中で主人公を交代させる緊急事態であり、その後釜に全くの新人俳優を抜擢するという大冒険。そんな事が許された時代なんですよね。
この第53話はTVドラマ史の中でも画期的な交代劇であり、俳優・松田優作のデビュー作としても重要な作品と言えましょう。なお、同時に初代マスコット・ガール(お茶汲み係)久美ちゃんとして青木英美さん、ジーパンのお母さんとして菅井きんさんもキャストに加わります。
#072 海を撃て!ジーパン
ジーパンの父親は拳銃を持たない主義の刑事だった為、いざという時に身を守れずに殉職したという設定。ジーパンは父の遺志を継いでというよりも、拳銃への憎しみゆえに銃の携帯を拒否して来ました。
ところが、そのせいで同僚のシンコが撃たれてしまう。いざという時に何も出来なかったジーパンは、ついに拳銃を手にします。日本で最も拳銃がサマになる(と私は思う)俳優が、初めて劇中で銃を構えた、これもTVドラマ史に刻まれるべき作品。
あと、銃を片手に堤防を走るジーパンの姿がシビレるほどに美しく、これも『太陽』を象徴する名場面として後に繰り返し使われる事になります。
☆1974年
#079 鶴が飛んだ日
殿下が犯人の罠にはまり、ヘロイン中毒にされちゃいます。主役の刑事がシャブ中にされたのは、日本のTVシリーズとしては初めての事かと思います。
それもその筈、これは殿下ファンの一般女子高生が番組に送って来たプロットを採用した作品なんですね。プロのライターさんにはなかなか出来ない発想です。
山さんが殿下と二人きりで地下室に閉じこもり、手錠で繋がった状態で彼の禁断症状につき合ってあげるクライマックスは、トラウマになるほど壮絶でありつつ、こちらが脱水症状を起こすほどに泣かされます。
この作品で明らかになったのは、女性ファンは王子様が酷い目に遭う姿を見ると萌えるという事実w 以来、殿下は監禁されたり記憶喪失にされたりの被虐キャラが定着して行きます。
#083 午前10時爆破予定
これはごく個人的な事なんだけど、実は私がリアルタイムで『太陽にほえろ!』を観たのは、この作品が最初なんです。雷に打たれたような、まさに衝撃の出逢いでした。
エピソードとしては突出したものでもないんだけど、この翌週の『人質』と2週続けてゴリさんが主役だったんですよね。『太陽』の精神を代表するキャラクターがゴリさんですから、なんだか運命的なものを感じちゃいます。
この時期に番組の視聴率もいよいよ30%を超えるようになり、『太陽』が一番熱く燃えてた時代でもありました。
#111 ジーパン・シンコ、その愛と死
これも伝説のエピソードです。それまで怖いもの知らずだったジーパンが、シンコと婚約する事によって、臆病になった自分に気づく。
ジーパン本人としてはショックなんだけど、それは人間としての成長の証であるとボスは解釈し、娘との結婚に猛反対してた宗吉にそのいきさつを話すんですよね。それを聞いて、宗吉もジーパンを見直す。
で、宗吉がジーパンのお母さんと会って2人の結婚を認め合ったちょうどその時に、ジーパンは命がけで暴力団から救ってやったチンピラに撃たれて、絶命しちゃう。
『純と愛』じゃないけどw、『太陽』の刑事は幸せの絶頂で死んで行く傾向があり、ジーパンはその典型例ですね。役名は柴田純だしw
ジーパンの断末魔の叫び「なんじゃこりゃあー!?」は恐らく、日本のTV史上で最も有名な、最も物真似された台詞ではないかと思われます。もちろん、優作さんのアドリブですね。
私が通ってた小学校でも、放映翌日にはあちこちから「なんじゃこりゃあー!?」の声がw テレビが娯楽の王様として君臨してた、昭和中期を象徴する光景でしたね。
これがちょっとした社会現象にもなって、いよいよ『太陽にほえろ!』は巨大なお化け番組へと変貌して行きます。
(Part.2へと続く)