Quantcast
Channel: blog@なんて世の中だ!
Viewing all articles
Browse latest Browse all 518

『クヒオ大佐』

$
0
0
これ、好きかもw いや、かなり好きですよ、これ。『大奥』は別にして、堺さんの出演作の中で、私にとっては今のところ『クヒオ大佐』がベストになりそうです。

でも「傑作! オススメ!」と書くには、何かが足りない気もするんですよね。その欠点が何なのか、元プロの端くれなら具体的に分析して、ズバッと指摘しないといけないんでしょうけど、そんな気持ちにもならないんです。

自称クヒオ大佐(堺雅人)に、あえて騙され続けた松雪泰子さんの心境に近いかも知れませんw それくらい自分にとって魅力的で、愛おしい作品なんですよね。

アメリカ生まれの軍人を名乗り、何人もの女性を騙した実在の結婚詐欺師をモデルにした物語と聞いて、私はてっきりジェームズ・ボンドみたいな色男がスマートに活躍するノーテンキな映画を想像してたんだけど、全然違いましたね。

心に傷を負った孤独な男と、恋愛に不器用でやっぱり孤独な女のストーリーって事で、むしろ妻夫木くん&深津さんの『悪人』に近いテイストの作品でした。ここでも満島ひかりさんがサブヒロインで、また主人公から酷い目に遭わされるし(ほんと被虐キャラだなぁw)。

だけど『悪人』ほどシリアスにならず、とぼけた味わいを最後まで貫いてる本作の方が断然、私の好みには合致します。そして、これは堺雅人ファンの方へのリップサービスでも何でもなく、最大の功労者はやはり、堺さんだと思います。

心の傷の話はとりあえず置いといても、自称クヒオ大佐に女性達が騙される心情が、男の私でもよく理解出来るんですよね。とにかくチャーミングなんですよ、クヒオがw

あの微笑みと、あの声。そして片言のようでペラペラな日本語w アグネス・チャンの日本語は可愛いと思わないのに、クヒオは可愛いw 『大奥』における京都弁と同じで、堺さんにしか表現出来ない味わいなんですよね。

そして、オーバーなコメディ演技は一切せず、終始抑えた芝居をしてるのに、何とも言えない可笑しみがある。と同時に、切なさまで感じさせる。これはもう、センスとテクニックの賜物でしょう。

私が一番笑ったのは、クヒオが松雪さんにお金をせびりに行こうとして、いつもの微笑み顔を作って歩き出すんだけど、そこで予定外の事が起こり、すぐ真顔に戻って物陰に隠れる場面です。

それ自体は大して可笑しい行動でもないんだけど、堺さんがやるとメチャクチャ可笑しいw まるで、微笑みの貴公子というキャライメージを逆手に取った、セルフパロディーみたいになってるw

つまり、微笑みがトレードマークである俳優・堺雅人の、決して見てはいけないオンとオフの瞬間を目撃しちゃったような気まずさ、とでも言いましょうかw 真顔と微笑み顔とのギャップがまた凄いからw、私は爆笑し、そこだけ何度もリプレイして観ちゃいましたよ。

他の役者さんがやってたら、これほど面白い場面にはならないと思います。そんなに面白くする必要も無い場面だしw、そもそも笑わせるつもりも無かったかも知れません。

もう一つ私が爆笑させられたのは、クヒオが長きに渡って一番カモにしてた松雪さんに、いよいよ正体がバレちゃった場面の、堺さんの顔です。上の画像がそれですw なんやねん、その顔は!(爆) こんな意味不明な顔が出来る二枚目俳優は、そうそういないですよw

しかし松雪さんは、クヒオの正体を知っても穏やかに微笑んでるんですよね。そして「一緒に死にましょう」って、彼に言うんです。台詞では一切語られないけど、松雪さんはクヒオに騙されてる事に、以前から薄々気づいてたのかも知れません。

いや、気づかない方がおかしいw 松雪さんと満島さん以外の人は、すぐに「こいつ、なんか怪しい」って気づいてましたからねw そう、クヒオは決して、器用な人間じゃないんです。

クヒオが抱える心の傷とは、幼少時に受けた、父親の熾烈な暴力による虐待です。それは一言も台詞では語られません。なぜならクヒオは、本当の事を言わないからw

画像の場面でクヒオは自らの生い立ちを松雪さんに語るんだけど、回想の映像は貧乏な家庭で父親に虐待される少年クヒオの姿なのに、言葉の上では俗福な家庭で幸せに暮らした事になっちゃってる。

この期に及んでまだ嘘をつくか!?ってw、一瞬笑っちゃうんだけど、そうじゃないんですよね。毎日のように父親から暴力を受けたクヒオ少年は、たぶん妄想の世界に逃げ込む事で、精神のバランスを必死に保ってたんだろうと思います。

つまり現実の自分とは違う自分像を創作し、それが本当の自分であると思い込む。そうしなければ耐えられなかったんでしょう。だから、彼の虚言は、彼自身の中では真実なんです。

いわゆる分裂症、一種の精神疾患ですよね。これも劇中では一切説明されない事ですから、私の想像でしかないのですが…

松雪さんも恐らく、本能的にクヒオの背負う哀しみを感じ取ってたのかも知れません。それが松雪さん自身の哀しみと共鳴したのか、あるいは自分が支えてあげなきゃいけないと思ったのか…

いずれにせよ、いわゆる「共依存」ってヤツじゃないかと思います。ダメな人どうしがこれに陥ると、行き着く先は破滅しか無いんですよね。

「クヒオなんかどうでもいい。私が好きなのは、あなたなの!」

彼が創り上げた「クヒオ大佐」という虚像じゃなくて、彼そのものを松雪さんは愛してた。だから、騙されてようが何だろうが、彼女には関係ない事なんですね。それもまた、実に切ない話です。

そう、現実的に捉えれば、この物語は相当しょっぱい悲劇なんですよね。そんな根っこにある悲しさを表現しながら、なんとも言えない可笑しみを最後まで失わず、随所で笑わせてくれますから、決して重くならない。

主演が堺さんでなかったら、この哀しみと可笑しみの絶妙なバランスを、最後まで保つのは難しかった事と思います。堺雅人の支えが無ければ、こんなに面白くはなってない。この映画の欠点は、そこかも知れませんね。

いやー、良かった。ていうか、好きですw 確かに『南極料理人』も良かったけど、孤独な男の話、哀しみと可笑しみが同時に伝わって来るような作品に、私はめっぽう弱いものですから、個人的には『クヒオ大佐』がイチオシです。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 518

Trending Articles