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ヘロデ王の悲喜劇

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『サロメ』観劇から丸1週間が経ちました。早いですねぇ!

旅が終わってからしばらくは、仲間と過ごした楽しい時間の余韻ばかりが強かったんですけど、ここに来て、意外と『サロメ』の世界も胸に深く残ってる事に、自分で驚いてます。

レビューを書いてて気づいたのですが、この物語はけっこう私好みじゃないかとw プロットはシンプルに、その分キャラクターを多面的に描いて、掛け合いの妙で楽しませる。そんな作品が私は好きなんです。

そして、決して立派とは言えない人物達の悲哀。これもかなり大好き。『サロメ』って、実はすごく面白い話なんだなぁと、観終わって1週間経ってから気づきましたw

自己投影出来る人物が護衛隊長しかいないって書きましたけど、よく考えれば、サロメやヘロデ王にも、ヘロディア王妃にだって、共感出来る部分はいっぱいあるんですよね。

サロメは純真無垢だけど、淫らな母親の血を確実に受け継いでます。それが皮肉な事に、自分と同じ純潔の身であるヨカナーンに惹かれた事で、覚醒しちゃう。

これは遺伝性の病気みたいなもんで、義父であるヘロデ王は、それがいつ発症するかとビクビクしてたんじゃないでしょうか?←私の独自解釈ですが…

オカルト映画の『エクソシスト』が、少女の反抗期や性の目覚めを「悪魔が憑いた」と解釈する、宗教的な発想から生まれた物語であると書いた事がありますが、『サロメ』も同じかも知れません。そもそも聖書がそんな内容だったりするんでしょうか?

私の解釈だと、ヘロデ王も自分のだらしなさを自覚してて、妻の淫らさにも辟易してる。「人間は破滅ですw」そして「なんて世の中だ!」な世界の中で唯一、純真無垢なサロメの存在だけが、心のオアシスになってたんじゃないでしょうか?

これを王妃ヘロディアの視点から見れば、彼女自身も恐らく親から受け継いだ、その淫らな血を夫から蔑まれ、内心は深く傷ついてる。

純真無垢なサロメに、すっかり汚れたヘロディアは絶対に勝てない。自分の娘に嫉妬させられるという、これもまた実に切ない話です。

だから彼女だけは、サロメの覚醒に大喜びするんですよね。母親としてじゃなくて、女として。

で、エロトピアの孤独な王様・ヘロデですよ。サロメを見つめる事で、必死に心の平穏を保って来た哀れなオッサンなのだと解釈すれば、我々は彼にこそ自己投影すべきかも知れません。

我々が、心が弱った時に見上げる月として多部ちゃんを愛するように、ヘロデのオッサンもサロメを心の支えにして生きて来た。

そう解釈して、ヘロデの視点からこの舞台を観れば、けっこう切なくて泣けるし、時には笑える悲喜劇かも知れません。

面白くもない宴会にうつつを抜かし、酔っ払ってる間に、愛する義娘が変態乳首男に首ったけになっちゃった。乳首ったけとでも申しましょうかw

そうとも知らず、だけど胸騒ぎがして、サロメの無垢なダンスを見て心を落ち着かそうと思ったのが運の尽き。それがパンドラの匣を開ける引き金になっちゃう。

ずっとずっと恐れて来た、サロメの覚醒を目の当たりにした時、彼の味わった絶望たるや…

そう考えると、『サロメ』は『農業少女』とかなり似た構造の物語かも知れません。百子の心があらぬ世界に行っちゃった時の、あの衝撃と切なさ。

その数倍の衝撃と切なさを味わったとすれば、サロメを殺すという究極の選択をするしかなかったヘロデの哀しさが、決して理解出来なくは無いかも知れません。

それとですねぇ、あの古典戯曲ならではの(?)くど過ぎる台詞回しも、妙にツボにハマるんですよねw 特に、ヘロデ王の台詞が。

以下の台詞(台本のまんまです)を、ご自分が多部ちゃんに向かって言ってる姿を想像しながら、声に出して読んでみて下さい。かなり笑えますよw

「違う、違う、お前はそんなものが欲しいのではない。お前は、ただ、わしを困らせようとして、そう言っておるだけなのであろう、わしが一晩中、お前を見つめておったから。いや! そう、その通りだ。わしは一晩中、お前を見つめておった。お前の美しさは、わしの心を掻き乱した。お前の美しさは、この心を激しく掻き乱し、そして、わしはお前をあまりに見つめすぎたのだ。だが、もう止そう。物であろうと、人であろうと、見つめるというのは、してはならぬことなのだ。見つめていいのは、鏡だけだ。鏡はただ、上っ面の仮面しか見せぬものだからな。…おお! おお! 酒だ! わしは喉が渇いた。…サロメ、サロメ、仲直りをしようではないか。とにかく、わかるであろう、…その、何を言おうとしてた? ん、何だった? ああ! 思い出した!…サロメ! いや、もっとわしの近くに寄れ。わしはお前が、ちゃんと話を聴いてなかったのではないかと心配なのだ。…サロメ、お前はわしの…(以下、延々と続く)」

ヘロデくん、おもろい!w

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