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『対岸の彼女』

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いよいよ「サロメ計画」決行の日が近づいて来ました。あと1週間です。クリスマスよりずっと早いです。

そこで『君に届け』再レビューに続く「サロメ・ツアー前夜祭」第2弾として、今更ではありますが2006年度作品『対岸の彼女』をレビューしたいと思います。

これはwowow制作の2時間ドラマなんだけど、映画と呼んだ方がしっくり来ますね。豪華キャストだし、クォリティーもそこらの劇場映画より高いです。

実は、この作品を取り上げるのは、今回が初めてじゃないんです。ブログを立ち上げて間もない頃、つまり私がタベリスト化する前に、ちょっとだけ書いた事があるんです。

その時はたまたまテレビを点けたらCSでやってて、途中からの鑑賞だったもので、ちょっとした感想を書いたに過ぎず、多部ちゃんの事もしっかり「田部未華子」と誤記してましたw

でも今思えば、私はこの時、既に多部シンドロームに侵されてたんですよね! 自覚出来てなかっただけで。

夜、例えばブログを書き終えた時なんかに、寝るまでの暇つぶしにテレビを点け、CSで何を放送してるかチェックし、さわりだけ観るのは習慣的にやってる事です。

そこで面白い作品に出くわしちゃうと、就寝時間も忘れて、ついつい最後まで観ちゃうワケですが、まぁ滅多に無い事です。

本当に面白い作品って、途中からでも判別出来るんですよね。さわりだけ観て面白ければ、それだけ優秀な創り手が創ってるワケだから、大抵は全部観ても面白い。その逆も然りです。

で、私が最初に目にしたのは、多部ちゃんと石田未来ちゃんの場面でした。たぶん私はその時、まず「おっ、若い女子が出てるぞ」とw さらに「しっかりした芝居をしてる。誰だ?」と思って、番組表を見た筈です。

で、「どうやら多部未華子と石田未来らしい。二人とも名前は知ってるぞ。どれどれ?」って、そんな興味でしばらく観てたんでしょう。

それでも、最後まで観るつもりは無かった筈です。なのに、いつの間にか私は、すっかり作品世界にのめり込んでました。一体、何が私をそんな風に吸い寄せたのか?

主人公は、小夜子という35歳の主婦(夏川結衣)です。

「私って… 一体いつまで私のままなんだろう…」

引っ込み思案な自分の娘を見て、小夜子は自身の幼少時を思い出し、自分の性格が大人になっても変わってない事に気づく。

だからかどうか分からないけど、働きに出る事を決意した小夜子は、そのパート先(小さな旅行代理店)の社長で、同い年の葵(財前直美)と出会う。

初対面からフレンドリーに接して来る葵と、友達みたいな関係になっていく小夜子。自分に似て孤立しがちな娘を嘆く小夜子に、葵はこんな事を言いました。

「なんで、一人じゃいけないって思うんだろ? 一人でいても怖くないって、思える何かを見つければいいんじゃない?」

いいこと言いますよねぇw でも、そう言う葵も実はかつて、小夜子みたいに引っ込み思案な女の子だったんです。

高校時代の葵(石田未来)は、イジメが原因で転校し、新しいクラスに入って不安だった時に、いきなりフレンドリーに話し掛けて来た魚子(ななこ)という女の子(多部未華子)と友達になります。

私が初めて目にした場面は、まさにこの辺りだったと思います。魚子というキャラクターと、それを演じる多部未華子の魅力に、私はグイッと引き寄せられた。今思えばですけど…

そんな明るくフレンドリーな女子である魚子が、ある日突然、イジメの標的にされてしまうんです。家が貧乏だという理由だけで! まったく、人間ってやつは… ばびでぶぅーっ!!

ところが、魚子は動じない。淡々と日常を過ごし、葵を巻き込まないよう、秘密の場所で会ったりする気遣いも見せる。

「私さ、全然怖くないんだ。ホント、ぜーんぜん怖くない。私の大切なものは、そんなとこに無い」

笑ってそんな事を言う魚子と接してる内に、葵はちょっとずつ強くなって行く。そう、魚子と出会ったお陰で、葵は財前さん演じる現在の、明るい葵に変われたんです。

私は初見の時、途中参加だったもんだから、ちょっと混乱しちゃいました。どう見ても、魚子=多部ちゃんが葵=財前さんの高校時代に見えちゃうし、実際の若き葵=石田未来ちゃんは、小夜子=夏川さんによく似てるんですよね。←文字にすると更にややこしいw

でも、それは意識的なキャスティングなんですよね。葵(財前)は魚子(多部)によく似た大人に成長し、引っ込み思案な小夜子(夏川)が、魚子と出会う前の葵(石田)とダブって見えるという。

つまり本作は、魚子に出会って救われた葵が、かつての自分そっくりな小夜子を救おうとし、同時に救われようとするドラマ。そんな風には描かれてないけど、私はそう感じました。

実際は「大人になってから出会った女どうしの友情は成立するか?」がテーマなんだけど、それよりも高校時代の描写に目を奪われちゃうんですよね。

そうして本来のテーマが霞んじゃう位、魚子という存在が物凄く大きくなってる。創り手の意図を超えて、まだ10代半ばだった多部未華子が、そこまで大きくしちゃったんです。

本作には他にも、香川照之、木村多江、堺雅人といった豪華キャストが参加してるにも関わらず、多部ちゃんが一番輝いて見えちゃう。贔屓目じゃありません。魚子っていうキャラクターの良さとの、相乗効果だと思います。

イジメに関して、魚子はこんな事も言ってました。

「結局さ、のっぺりし過ぎてるんだよ。町も、学校も、何もかもみーんな。のっぺりしてるから、イライラして、自分より下の人見ないとやってられないんだよ」

「言ったでしょ、私、全然平気なんだよ。今、私がみんなから言われてる事は、本当は私の問題じゃないから。あの人達自身の問題だから」

…いやぁ、強い。強いなぁw 正論ではあるけど、なかなかこうは割り切れません。独りが大好きな私だって、クラスの中で孤立するのは相当ツライですよ。

じゃあ、魚子はこんなにも強い子だから、魅力的なのか? 私は魚子の強さに惹かれて『対岸の彼女』を最後まで観ずにいられなかったのか?

違うんですよね。強いだけじゃそんなに惹かれないし、逆に弱いばかりでも駄目。その両面を兼ね備えた魚子だから、その両面を同時に表現出来る多部ちゃんだからこそ、我々は魅了されちゃうんだと思います。

夏休み、葵と二人で過ごした合宿バイトから帰ろうとした時、魚子は意外な顔を見せます。

「…私、帰りたくない…帰りたくない…帰りたくない……帰りたくないよ」

本当はやっぱり、ツラかったんですよね。イジメだけじゃなく、恵まれない家庭環境も含めた現在の生活そのものから、魚子は逃げたいと思ってる。親友と心底楽しい時を過ごしちゃったから、尚更です。

演じてるのが多部ちゃんでなければ、この場面は唐突に感じたかも知れません。最初から微かに弱さも匂わせて来た、多部ちゃんの魚子だからこそ、この場面には胸を締め付けられ、思わず一緒に泣いちゃう。

「……分かった。帰るのやめよう」

そう言って一緒に旅に出ちゃう葵も良いですよね。同情とかじゃなくて、そもそも同じ痛みを葵も持ってるから、心底から解り合える。

「私、魚子といたら、何でも出来そうな気がする」

二人は、ちょっとした火遊びを経験するも満たされず、その場の思いつきで、一緒にビルから飛び降りちゃいます。

二人とも大怪我を負い、まぁ当然でしょうけど、大人達の配慮で二度と会えなくされちゃう。でも、葵の父(香川さん、好演!)の粋な計らいで、別れの挨拶だけは出来ました。

「私たち、ちょっと間抜けだったよね。何処へも行けなかった…」

「…何処へ行こうとしてたんだろうね、私たち」

別れ際に、魚子はいつもの台詞を言いました(画像)。

「また明日ね!」

二度と会う事は無い、お互い「対岸」の存在になるのは解っていた筈です。『ルート225』の姉弟の別れもそうだったけど、あえて日常的な挨拶で別れるのって、すごい切なくて泣けちゃいます。

「お父さん… どうして私たちは、何も選べないの? 大人になったら、自分で何かを選べるようになるの?」

別れの後、葵は父にそう言って、初めて涙を流しました。その時から葵は、全てを自分の意志通りに決めて行動する、強い大人になる事を決意したんだろうと思います。

それは決して簡単な事ではなく、周囲の反感を買って孤立する事もしばしばあった事でしょう。そんな時に彼女を支えたのは言うまでもなく、魚子から貰った言葉や、友情の思い出だった筈です。

あんなに濃密な友情を味わったら、その後の出会いにのめり込む事は、なかなか出来なくなるかも知れません。ちょっとやそこらの友情だと、嘘っぽく感じそうです。

だから葵は、今も孤独なんですよね。でも魚子だって内心はツラかったのと同じで、葵も淋しかった。そんな時に、かつての自分そっくりな、小夜子が現れた。

魚子との関係みたいな友情が築けるかと思ったけど、小夜子には家庭があり、独り身の葵とはお互い、どうしても「対岸の彼女」になっちゃう。

それでも、二人は壁を乗り越えて、やがて親友になって行く…のかな?ってところで、ドラマは終わります。本当はこっちの話がメインなのに、そして夏川さんも財前さんも素晴らしいのに、それを食っちゃってる多部未華子が恐ろしいw

「……とっておきの場所があるんだ。今度教えてあげる」

ラスト、葵が小夜子に、友情の証として連れて行った場所とは、高校時代の葵が魚子に連れてって貰った「とっておきの場所」。

それが群馬県の何処かにある大きな川の、長ーい橋なんだけど、サロメ・ツアーでは其処にも連れてって貰える予定なのでw、あらためて本作を観直した次第です。

でもこれ、本当にいい作品ですね。かけがえのない友情… 老若男女、誰でもしみじみと共感できる内容だと思います。

いつか…いや、今すぐにでも、劇場公開して欲しいですね。

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