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『大奥〜誕生』#10(終)

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今の私の精神状態で、物語に没入出来るのかどうか不安だったのですが、杞憂でした。しっかり号泣させて頂きましたw

この作品の素晴らしさは、現在の日本映画やドラマ界で横行してる「記号演出」に頼らず、細かな描写の積み重ねで人物への理解を深めてくれる、その真摯さと緻密さにありますよね。

記号演出っていうのはすなわち、泣かせる台詞やBGMをフル活用し、役者が号泣する姿を見せて観客を無理矢理もらい泣きさせるような演出の事です。

登場人物の言動に矛盾があろうが、ストーリーが破綻してようが、昨今の観客は記号に反応して簡単に泣いてくれるもんだから、創り手はラクなもんですよホントに。だから手を抜きまくりです。芦田愛菜ちゃんを呼んで来て「はい、そこで泣いて」で済んじゃうんだから。…そりゃちょっと言い過ぎかw

観る側もそれでパブロフの犬みたいに調教されてるもんだから、記号演出の方が頭を使わなくて、手軽に心地良く泣けちゃう。だからそういう安易な作品がヒットし、この『大奥』みたいに緻密な作品は敬遠されたりしちゃうワケですよ。まったくもって破滅です。

それはともかく、まず最初に私の涙腺を決壊させたのは、稲葉正勝(平山浩行)の自決です。これもまた、安易な作品なら彼が自分の人生を回想しながら切腹する様を、大仰な音楽をバックにこれ見よがしに撮っちゃうところを、本作は既に死んでる正勝を有功=お万の方(堺雅人)が発見するという、言わばあっけない演出。

だけど、初回からずっと観て来た観客ならば、彼がどんな想いで自決したかを深く理解してるから、クサい台詞も音楽も全く不要で自然に泣けちゃうワケですね。記号に反応して出てくる空っぽな涙とは、同じ涙でも質が違う!

正勝が家光ちゃん(多部未華子)に恋をしてた事は、これまで一度も台詞じゃ語られてないけど、細かな描写の積み重ねで我々には薄々解ってる。そんな意識はしないで観てたとしても、有功の一言で見事、腑に落ちましたよね?

これこそが、本来あるべき作劇の仕方だと思います。記号で流した涙なんかすぐに忘れちゃうけど、この涙はずっと余韻を残してくれる筈です。記号演出は一種のアトラクションで、本当のドラマとは言えないと私は思います。

第二の涙腺決壊ポイントは、有功と玉栄(田中聖)のお別れ場面ですね。先週の予告編でチラッと観ただけでヤバかったですけどw、これも初回からの積み重ねがあればこそです。

第三のポイントは、「有功とすごろくがしたい」と言った千代姫を、思わず強く抱きしめちゃう有功です。似たような台詞を亡き母・家光ちゃんが言ったかどうか覚えてないけど、まさに愛する女の分身そのものだったんですね。

砂浜で寄り添う二人の夢想場面が、最後にもう一回出てくるものと私は予想してたんだけど、上様はちゃんと目の前で生きていた。その千代姫と有功が手を繋いで、大奥の廊下を歩くというラストシーンでした。

千代姫が、有功の娘ではない事が効いてますよね。娘なら父親としての感情が入っちゃうけど、そうではなく、有功は真性のロリコンなんです。(←こんな小粋なジョークを書ける位なら、私も大丈夫ですねw)

幼い頃の家光ちゃんと同じ子役が千代姫を演じてる事は、yamarineさんのブログを読むまで気づきませんでした。気づいたら誰が世継ぎになるかすぐ判っちゃいますねw

そして最後のポイントは、息を引き取った家光ちゃんに、有功がそっと化粧をしてあげる回想場面です。この静けさがあればこそ、心底から泣ける。これも凡庸な演出家なら、「う、上様! ううう上様ぁぁあああーっ!! ばびでぶぅーっ!!」って、堺さんに鼻水・涎付きで泣かせかねませんw

以上に列挙したのは、どれも多部ちゃんが芝居してない場面だけど、それぞれ上様への想いがメインにある場面ばかりですから、多部ちゃんに魅力が無ければ泣けなかった筈です。

この作品、主人公は有功でも、世界は終始、多部ちゃんの家光将軍を中心に回ってました。全ての登場人物達の、上様を想う気持ちが描かれたドラマでした。その上様に魅力が無ければ、全てが台無しになっちゃう。

そんな大役を多部ちゃんは、今回もまた、見た目はサラリとやってのけましたよね。それがどれだけ凄い事で素晴らしい事なのかは、タベリスト仲間の皆さんがそれぞれのブログで想いをこめて書かれてますので、此処では繰り返さないでおきます。

それよりも、男女逆転の大奥というキテレツなお話を、不景気や低視聴率に動じる事なく、これほど真摯で緻密な作品として仕上げてくれた創り手の皆さんに、惜しみない拍手と感謝を捧げたいです。

多部ちゃんや堺さんをキャスティングしてくれた事も含めて、very good job! 誰か! 今年のナンバー1ドラマはこれで決まりである事に、異存はあるかぇ!?

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