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『クライマーズ・ハイ』

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雅人まつり第3弾です。メジャーな作品なので内容は簡略にご紹介しますが、1985年に起こった世界最大規模の日航機墜落事故を取材する、地元・群馬県の新聞記者達をドキュメント・タッチで描いた、社会派の大作映画です。

何度となく目にした予告編やダイジェスト映像から私が受けてた印象は、大の男達がひたすらエゴを剥き出しにして、やたらめったらいがみ合い、怒鳴り合ってる映画、というものでした。

観たら、ホントにそんな作品でしたねw ちょっと皮肉っぼい言い方をすると、まるでヤクザ映画だなぁとw 北野武監督の『アウトレイジ・ビヨンド』はこんな感じなのかなぁと思っちゃいました。

ただし、クライマーズ・ハイっていうのが、そうして極度な緊張状態に置かれた人間が味わう恍惚感、一種の麻薬みたいな感覚だとしたら、一昨年だったかのアカデミー賞を穫ったハリウッド映画『ハート・ロッカー』を連想したりもします。

あれは戦場の爆弾処理班が主役で、生きるか死ぬかの瀬戸際に置かれるスリルを味わうのが、多部ちゃんに乳首をイジられるよりも快感で、日常生活に戻れなくなっちゃうって話だったんですよね。

普通の神経を持ってる人間は、そんな狂った世界に耐えられなくて脱落しちゃう。上の画像で堺さんの隣に映ってる人も、最後は発狂して大変な事になっちゃいます。どっちに転んでもマトモな生き方は出来ないワケです。

つまり本作も、取材合戦という戦場で頭がおかしくなってる男達の映画だと解釈すれば、四六時中いがみ合って怒鳴り合ってる光景も、さもありなんと受け入れられます。実際、事故現場は戦場さながらの悲惨さだったみたいだし…

そんなワケで、総体的には面白かったです。だけど不満点も少なくなくて、レビューとしては辛口になっちゃうかも知れませんm(_ _)m

良かった点から挙げて行きますと、まず取材合戦の内幕がやっぱり面白かったですね。かなりデフォルメされてる感じはしましたが、知ってるようで全然知らない世界ですから、興味深かったです。

あと、『ハート・ロッカー』もそうだったけど、米ドラマ『24』あたりから流行りだした、やたら揺れたりズームを繰り返す報道フィルム風のカメラワーク。これは「わざとらしさ」という欠点と紙一重なんだけど、この映画の内容にはよく合ってたように思います。

長所なのか短所なのか迷ったのが、主人公(堤真一)が最後に大スクープを見逃しちゃう事です。誤報の可能性が少しでもあるなら、そのリスクは避ける。考え方は確かに正しいけど、映画としてはスッキリしないですよね。

信念に基づいて、あえて格好悪い選択をした堤さん。それは逆に格好良く見えて然るべきなんだけど、イマイチそう感じられなかったんですよね。だから迷ったんだけど、倫理的には正しい結末なんで、やっぱ長所かなと。

堺雅人さんは事故現場に足を踏み入れるアグレッシブな敏腕記者を演じて、鬼気迫る芝居を見せてくれました。決死のレポートが輪転機の故障などという理由でボツになったと知った時の、阿修羅みたいな目つきが凄かったですね! 多部ちゃんにも劣らぬ眼力を感じました。いやー、あれは恐ろしかったw

短時間だけど、尾野真千子さんと堺さんのコンビが見られたのも良かったです。男優陣が全員殺気立ってる中でw、オノマチさんのナチュラルさはオアシスに感じられたし、かえって光ってましたよね。

さて不満点ですが、まず上映時間の長さですね。2時間半ほどあったように思うのですが、ちょっとしんどかったです。緊迫した描写が続くのは、それでいいと思うんです。それを緩和する為に挟まれたであろう、父と子のドラマが全く蛇足だった。あれが無ければ2時間に収まりますよね?

年老いた堤さんが、記者時代に別れたきりの息子を想いながら登山する姿が、日航機事故のエピソードと交互に描かれるんだけど、その登山で堤さんはクライマーズ・ハイの状態になる。

スクープを追って見境を失ってる、若き日の堤さんとリンクさせてるのはよく解ります。で、登山中の堤さんが、足を滑らせて宙づりになった瞬間に、我に返る。危険なハイ状態から脱して冷静になるんです。

それがつまり、誤報を避けてスクープを見逃す道を選択する、若き堤さんとリンクしてるワケなんだけど、ここに息子の話が絡んで来ちゃうから、せっかくの対比が分かりにくくなってるんですよね。

父がそこで宙づりになっちゃう事を予測して(それも凄い話だw)、息子が前もって危機を脱せられる仕掛けを用意してくれてた、なんていう感動秘話にシフトしちゃうもんだから、肝心のクライマーズ・ハイの問題がどっかに飛んでっちゃうんですよね。

そんな息子の思いやりは、日航機事故の件とは全く関係がない。主人公が重大な決断を下そうとするクライマックスに、それと全く関係ないエピソードを挿入してどうすんねん!?って話ですよね。

この父子のドラマそのものが、全体的に消化不良だと感じました。別れる事になったいきさつもよく分からんから、二人がお互いにどんな感情を抱いてるのかも分かんない。だから、ラストで感動の再会を果たしてくれても、観てるこっちは心が動きません。しつこいようだけど、そもそも日航機事故と関係ないし!

殺伐とした描写ばっかりじゃ女性客が寄りつかないから、ちょっとヒューマンな泣けるドラマも入れとこうよってんで、後から取って付けたようにしか見えません。

それでちゃんと泣けるなら文句ないけど、チクビとも泣けないんだから本筋の邪魔にしかなってないですよ。もっとも、昨今の観客はパブロフの犬みたいに調教されてますから、綺麗な映像に感動的な音楽さえ被せときゃ勝手に泣いてくれんだろけど。…ああ、やっぱり辛口になっちゃったw

あと、さんざん対立してた堤さんと遠藤憲一さんが、大スクープを目前にして急に結束する場面。なんだかんだ言っても同じ志を抱いてる男どうし、いざとなりゃ確執なんか忘れて協力しちゃうぜ!っていう、本来ならゾクゾクするような名場面になる筈なんだけど…

この人達は、アホなんだろかと思っちゃいましたm(_ _)m いくらなんでも、あそこまで心底から嫌い合い、壊滅的に決裂してた二人が、んなワケ無いやろ!って思っちゃいましたm(_ _)m

役者さんに罪は無いと思います。これは主に、監督さんの責任ですよね。香取くんの芝居と一緒で、表面的な描き方しかしてないからだと思います。行間から読み取れるものが無いんですよね。前述の父子のドラマも同じくです。

二つの場面を例に挙げましたが、問題の根っこはどっちも一緒ですね。あまり人間ドラマに興味の無い創り手が、メジャー映画だからってんで仕方なくヒューマンな要素を盛り込むと、こういう結果になっちゃう。

だから、開き直って取材合戦の地獄だけを徹底的に描いて、90分位の尺に収めた方が、断然見応えある作品になったんじゃないかと私は思います。だけどなかなか、それが許されないのがメジャー映画のツライところなんですね。

そんなワケで、取材合戦の部分は面白かったけど、下手なヒューマニズムが大いに足を引っ張った、惜しい作品だったなぁっていうのが、私の感想です。

堺さんはここでも、堅実な良い仕事をされてたと思います。しかし怒った顔はホント怖かった! やたら怒鳴り合ってるヤクザみたいな連中より、静かに怒る堺雅人の眼の方が、よっぽど恐ろしいw

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